この結婚には愛しかない
あの頃は、神田室長、大森副室長、佐和と私の4人でよく食事に行ったり飲みに行った。

憧れの神田さんにご当地グルメを紹介して、「美味しい」と言っていただくことも楽しみの一つだった。


神田さんのご希望で、1月に土日限定で開催される牡蠣のイベントに行こうと4人で計画していたのに、当日急に大森室長と佐和の都合が悪くなり、初めて休日に2人だけでお会いしたのだ。

あの時はとにかく緊張がすごくて、牡蠣の味が全然分からなかった。でも神田さんが美味しいと言ってたくさん笑顔を見せてくださって、それだけでお腹いっぱいになったのを覚えている。


その日はイベントの後、ドライブに連れて行ってくださった。工場夜景を見に行って、車から降りてうちの工場どれかな、なんて言ったものの、あまりの寒さにすぐ車に駆け込んだ。

神田さんがホールディングスに戻ってしまうカウントダウンが始まっていたので、帰りたくなかった。

マンションまで送ってくださって、勇気を振り絞ってお茶でもと誘ったけれど、部屋に上がってはくださらなかった。


「牡蠣のイベントに行ったこと、覚えていらっしゃいますか?」

あの時のこと覚えてくださっていたら。と期待を込めた質問に対し、神田専務は「もちろん」と答えてくださった。
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