溺愛執事は貧乏お嬢様を守り抜く
「く、くるし」


彼の胸に顔を埋めて呻いたら少し力が緩んだ。


その隙に肺いっぱいに空気を取り込む。


「あ」


でも、またギュウっと強い力で抱きしめてくる。


「し…おん」


そう言えば、ずっと昔、出会ったばかりの頃は『わかば』って呼び捨てだったっけ。


その時は執事とお嬢様の関係じゃなかったから。


彼が本格的に私の執事になってからは、名前で呼んでくれていいよって言っても、決して呼んでくれなかったな。


彼との出会いは、10年前で私が5歳で彼が8歳の時。


お母さんに連れられて初めて我が家へ来た彼は、背が高くて女の子みたいに綺麗な顔で。


そう言えば美人のお母さんにそっくりな顔立ちだったっけ。


彼のお母さんは如月家が今よりずっと裕福だった頃、専属のピアニストとしてうちの邸に住み込みで働いてくれていて、息子と一緒に使用人部屋を使っていた。
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