御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい
「みちる」

キスの合間に何度も私の名前を呼ぶ。そのたびに私への気持ちが流れ込んでくるように胸が熱くなる。

「奥山さん、好き」

合間で紡いだ私の拙い言葉。彼はその言葉にさらにキスが激しくなる。
息が苦しくなり、空気を求めるように少し開けた唇。それを見逃さず彼の舌は私の中に侵入してきた。
私のものと絡まり合うようにお互いを今までになく感じる。口の中を探られ、私はもう立っているのが精一杯で、彼に回した腕の力も抜けていった。膝から崩れ落ちそうになると彼は私を抱き上げ、車の中へ連れていってくれた。助手席に座らせてもらうと彼は運転席に回り込んだ。
彼は私の手を握りながら、目を見つめてきた。そして触れるだけのキスをもう一度した。

「このままだとやめられなくなりそうだ」

そう呟くとそっと唇を離した。

「みちるが嫌ならこの髪は下ろしたままにする。と言っても普段から滅多に上げないんだ」

確かに初めて会った時も、その後に会ったときも表情はいつも見えていなかった。

「そうなんですね。髪を下ろしていてくれた方が安心します。でも奥山さんは奥山さんだから、何も変わらないです。ただ、目が悪くならないのかなって心配なだけで」

「ははは、みちるらしいな。自慢じゃないが、みんな俺の顔を見た途端に擦り寄ってくる。なぜ髪をあげないのか、とくってかかってくるやつもいる」

「え、そんなの自由じゃないですか。私の意見よりも奥山さんがしたいようにすればいいと思います」

私の言葉に彼は笑い、そして頭をポンポンとしてきた。

「ありがとう。それよりも、俺のことを名前で呼んでくれないか?」

あ……。
彼の名前はスマホに登録したので知っている。でも男の人を名前で呼ぶなんて小学生以来。呼びたいのに緊張してしまう。

「あ、蒼生さん」

震える声で呼ぶと、また私の頭に手が乗った。

「みちる、ありがとう」

彼の優しい声に私の耳はとろけてしまいそう。心臓も破けてしまいそうなほどにずっと高鳴ったままだった。
時折聞こえてくる飛行機のエンジン音が心地いい。何機もの離発着を一緒に見ていると空は徐々に暗くなっていった。
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