御曹司は初心な彼女を腕の中に抱きとめたい

本当に私でいいの?

「もしもし、お母さん? みちるだけど」

『あぁ、みちる? 元気にしてる?』

「うん。お母さんたちは元気なの?」

『元気よ』

ここまではいつもの会話だ。私は緊張しながら妊娠の話を告げるべく切り出した。

「あのね、言わなければならないことがあるの。実は、赤ちゃんができたの……」

え? と言う声が聞こえた後無言になってしまった。そんな母にかける言葉が見つからない。お互いになにもいえずに無言になってしまうと、そばにいたのか父が代わりに電話口に出た。

『どういうことだ?』

怒気を含んだ強い口調に私は怯んでしまう。怒られると萎縮してしまっていると、また電話に母がでた。

『みちる、妊娠しているの? 誰の子なの? 結婚はするの?』

慌てた様子で矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。きっと電話口の向こうで父も聞き耳を立てているのだろう。

「結婚はしない。私が産んで育てる。もうすぐ八ヶ月なの」

『そんな……。どういうことなの? みちるが引っ越したことと関係あるの? そういうことよね』

「関係ない。別れた後に妊娠に気がついたの。引っ越してしばらくしてから妊娠に気がついて、それで産みたいって思ったの」

『それって弓川社長の子供なの?』

どうして弓川社長の名前が出てくるのだろう。ただの社員だった私と社長に接点なんてあるわけがない。母の言葉に違和感を感じる。

『みちるから会社を辞めたと聞いてしばらくしてから電話がきたの。弓川社長だと名乗られてね。みちるの消息を確認してきたわ。でもただの社員であるみちるに社長が連絡を取りたいというなんておかしいと思って。それにみちるの居場所を知らないのは本当のことだから、わからないと伝えたの』

そうだったんだ。でも弓川社長がなぜ? と疑問に思ったが、ふと頭に浮かんできたのは蒼生さんだった。確か弓川社長とは学生の頃からの友人だと聞いていた。一緒のマンションに住むくらい仲がいい。だからもしかしたら、と私の胸の奥がざわついた。

「弓川社長とはなんの関係もないから安心して。入社式でしかあったこともないから」

『それならなぜみちると連絡を取りたいの? 会社でなにかしたわけじゃないわよね?』

「それは絶対にない。悪いことなんてしていないから安心して」

『安心なんてできないわよ。ねぇ、どこにいるの? お腹も大きくなってきているんでしょう。これからのことを会って話しましょう。ひとりで出産するなんて大変なことよ。わかっているの?』

母からの一方的な言葉に返す言葉が出てこない。けれど母はもうこんなにもお腹が大きくなってきている私を放って置けないのだろう。手伝うから住んでいるところを教えるように言ってきた。私は観念して、母に住所を伝えた。驚いていたが、明日にでも会いにいくからと言われ、覚悟を決めた。
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