元奴隷の悪役令嬢は完璧お兄様に溺愛される

「レイン様が、ヘンリエッタさんを突き落とした……?」

 誰かが口にしたその言葉が、さざ波のように広がっていく。

「まさか嫉妬?」
「婚約者のオリバー様、最近ヘンリエッタさんと仲が良かったものね」
「女の嫉妬ってこええ……」

 足元がぐらぐらする。頭がぐわん、ぐわん、と鳴って、今にもその場に頽れてしまいそうだ。
 ふらつく足、それを受け止めてくれる人は今はいなくて、教員たちが倒れたヘンリエッタを救護室へ運んで行ったあと、レインを保護して教員室に運ぶまで、レインはその場から一歩も動くことも、何かを声にして発することもできやしなかった。



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