【完】クズな彼の危険すぎる偏愛から逃げられない
お母さんがわたしを置いて出て行ったのは、冷たい雨が降り注ぐ梅雨のある日だった。
その後はお母さんの妹――おばさんの家で引き取られることになったのだけど、もちろん歓迎されるはずもなかった。
おじさんとおばさん、それからふたりの兄妹がいる家族の中に、突然現れたよそ者の居場所なんてなかったのだ。
おばさんの家に住まわせてもらうことになってすぐのある夜、リビングでおじさんとおばさんが話しているのを聞いてしまったことがある。
『あの子を養うなんて無理だ。児童養護施設に預けようか』
『それだと、ご近所さんになにを言われるかわからないわ』
『それもそうだな……』
『まったく、ほんとに姉さんはなんて厄介を押しつけてくれたのかしら。姉さんも姉さんで"特別体質"なんて恥ずかしい』
わたしを引き取ってくれたのは、近所の目があるから。
わたしはただの厄介者でしかなかったのだ。
その時もお母さんがいなくなった時も、涙は一滴も出なかった。
悲しさを途方もない絶望がやすやすと追い越していったから。
それから6年、わたしは肩身の狭い家で息を潜めて生きてきた。
高校生になったら自立できるよう、バイトでお金を溜めて、このアパートに引っ越した。
高校の学費も免除になるよう勉強も必死に頑張った。
寂しさを感じる暇もないくらい必死に生きてきたけれど、それでもふとした時、胸に穴が開いたような虚しさと孤独感が胸に募る。
お母さんがわたしを置いて出て行ってしまってから、わたしはどこにいてもひとりぼっちなのだ。