The previous night of the world revolution8~F.D.~
今頃帝国騎士団は、あの殺害現場から他の証拠がないかを探っているはずだ。

ただし、その証拠は真犯人を探す為、と言うよりは。

…俺が、確かに犯人であるという証拠を探す為だろう。

事件の一番の容疑者には俺なんだから、それも当然のことだ。

「これは私の推測だけど、恐らく真犯人の目的は、ルレイアを犯人に仕立て上げることだ」

と、アイズ。

…俺もそう思います。

「…ルレイアを…犯人に?どうして…?」

…さぁ。どうしててしょうね。

「ルレイアに何かしら恨みがあるのか…。それとも、他にアジーナ・ミシュル・サイネリアが恨みを買っていて、自分の犯行を隠す為に、犯行動機の説明がしやすいルレイアを隠れ蓑に選んだか…」

「…いずれにしても、ルレイア師匠に不利な状況なのは確かです」

アリバイの証明は不可能、おまけに動機がはっきりしている。

極めつけは、アジーナが最後に残した言葉だ。

「ルシファー・ルド・ウィスタリアに殺される」という、あの台詞。

あれを執事とやらに聞かれ、おまけに録音までされてちゃ、言い逃れも出来ない。

「…そうだね。何より恐ろしいのは、これ以上証拠が見つかってしまうことだ」

「…これ以上、って?」

「別の証拠だよ。…ルレイアが犯人だって証明するような、確固たる証拠が見つかってしまってしまったら…」

…えぇ。

アイズは俺の為に言葉を濁したが、言わんとすることは分かる。 

…これ以上俺に不利な証拠が見つかったら。
 
例えば、現場に俺の指紋がついた凶器とか、頭髪や服の繊維とか。

そういった確定的な証拠が見つかってしまったら…。

…俺は重要参考人から、正式に容疑者にクラスチェンジする。

ランクアップおめでとうございます。

…って、全然嬉しくありませんけどね。

「そ、そんな…。ルレイアが犯人に…」

「…犯人になったら、どーなんの?ブタ箱で臭いカツ丼食わされんの…!?」

「…アリューシャ。それはドラマだけの話だよ」

実際はカツ丼なんて食べさせてもらえないし、ついでに臭くもないみたいですけどね。

いずれにしても、留置場だの刑務所だので食事したくないですよ。俺は。

「殺人事件の犯人というだけで大概ヤバいですが、今回は貴族が相手ですからね…」

「貴族だとどーなんだよ?その辺のゴキブリだろうと女王だろうと、命は命だろ」

アリューシャらしい意見ですね。
 
俺もそう思いますけど、でも貴族至上主義のルティス帝国社会じゃ、命は平等じゃないんです。

…俺も元貴族なので、よく分かります。

「貴族の当主が相手だと、罪はより重くなります。しかも、ルレイア師匠の場合…『青薔薇連合会』の幹部ですからね」

「殺人事件を抜きにしても、俺達全員、叩けばいくらでも埃が出てくるぞ」

…ですよねぇ。

何なら、マフィアという存在そのものが非合法ですから。

俺は清廉潔白な心を持つ清らかなルレイアですが。

それでも、叩けば埃が出るというのは事実である。

普段は、帝国騎士団も黙って見逃してくれているが。

貴族のご当主様を殺害した、なんて嫌疑をかけられたら…嫌というほど腹を探られるでしょうね。

それは非常に厄介です。

俺だけじゃなくて、芋づる式にルルシーやアイズ達にまで、手が及んでしまう恐れがある。

…俺が本当に恐れているのは、それです。
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