The previous night of the world revolution8~F.D.~
嘘をつくには、真実を半分混ぜると良い。

人を騙す時の基本である。

「ご存知の通り、ウィスタリア家は代々、帝国騎士を輩出する家柄…。生まれた時から、俺は将来帝国騎士になる為に育てられました…」

ここまでは、紛れもない真実。

「でも、俺は帝国騎士にはなりたくなかった…。人を傷つける為に、剣を握るのが嫌だったんです」

ここからは、今、即興で考えたアドリブである。

「帝国騎士じゃなくても、人の為、世の為に役に立つ方法はいくらでもあるはず。俺はそんな方法を探したかったんです。ですが…俺の家族は…ウィスタリア家の人々は、そんな俺を許さなかった」

「…許さなかった…?それは、どういう意味なのですか?」

「帝国騎士にならないのなら、お前にウィスタリアの名前を名乗る資格はないと…。俺から、貴族権を取り上げたんです」

「…!」

分かっていると思うが、これは全部作り話である。

俺が貴族権を取り上げられたのは、ローゼリア元女王暗殺未遂事件の犯人に仕立て上げられたからだ。

あの時のことを思い出すとイラつくから、さっさと話を進めよう。

「貴族としての権利を奪われた俺は、途方に暮れて…。行く宛もなくて、路頭に迷いました…」

「そんな…。酷い…」

顔を両手で覆って、涙ぐむマリーフィア。

良い感じ。効いてるようですね。

「そんな俺が辿り着いたのが、今勤めている…『R&B』という芸能事務所だったんです」

これは、あながち嘘ではありませんよ。

『R&B』は、『青薔薇連合会』が母体となっている会社ですからね。

「そこの社長が、路頭に迷っていた俺を拾って、雇ってくれたんです」

「そうだったんですの…」

「その時は、会社がマフィアと関わっているとは知りませんでした。知ったのは、後になってからです…。誓って言いますが、会社がマフィアと関わっているなんて知っていたら、誘われても断ったはずです」

「…」

あくまで、裏社会とは関わりたくなかったのだとアピールする。

「知らずに会社に入ってしまって…。真実を知った今も、今更辞めることは出来ませんでした。会社を出ても、俺に後ろ盾はありませんから…」

いかにも悲しそうに話すと、マリーフィアは涙ぐみながら聞いていた。

相変わらずチョロい。

「それに、社長はマフィアの構成員…。俺が勝手に会社を辞めたら、報復されないとも限らない…。後ろ盾のない俺には、逃げることも隠れることも出来ません。…俺だって、マフィアとは関わりたくない。でも、どうすることも出来ないんです」

「…そんな…」

効いてる、効いてる。

ルルシーが聞いてたら、きっと「よくもそんなペラペラと作り話が出来るもんだな」と呆れそうだが。

嘘も方便ってね。

「黙っていて、済みませんでした。…俺、知られたくなかったんです。自分が裏社会の人間と関わってるなんて…。元貴族だったってことも…」

「…ルナニアさん…」

「あなたには…俺が唯一心を開いたあなたにだけは…どうしても、知られたくなかった…」

あくまで、「隠すことは本意ではなかった」ことをアピールする。

マリーフィアが調査会社を使って俺を調べていたことは、さすがに想定外だったからな。

すると、マリーフィアは。

「何で黙ってたんだ嘘つきめ」と俺を罵る代わりに。

涙ぐみながら、俺の手を取った。

「もう良いんですのよ。…それ以上、辛いことは仰らないで」

そうですか。

「教えてくれて、ありがとうございます…。わたくし、これで決心が付きましたわ」

「…決心…?」

「えぇ。ルナニアさん…。やっぱり、わたくしと結婚してくださいな」

…何をどう決心したら、そうなるんだ?

話が飛躍し過ぎだろ。
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