嘘に恋するシンデレラ
「おまえのくだらない嘘に振り回される俺のこと見て、あいつと面白がってたわけだ?」
「ちがう……!」
必死の思いで否定するけれど、隼人はせせら笑うだけだった。
今度は耳を引っ張られる。
「痛い! 痛、い……っ」
否が応でも起き上がらざるを得なくて、耳を押さえながら重たい身体を起こした。
その瞬間に頬に衝撃が走る。
遅れて痛みがやってきて、殴られたのだとあとから気がついた。
とっさに押さえると、涙が伝った。
じんじんと熱くて染みる。
(どうして……?)
今日の彼はいつもとちがっていた。
いつもなら、今頃きっと我を取り戻しているはずなのに。
感情的で凶暴で、自分以外の何も信じられない様子だ。
魔法の言葉も全然効いていない。そもそも届いていない。
一時でもわたしに欺かれたことがよっぽど気に食わないのだろうか。
とにかく虫のいどころが悪いみたい。
「いつから……?」
思わず口をついた。
彼は不機嫌そうに眉をひそめる。
「あ?」
「いつから気づいてたの? わたしが嘘ついてるって……」
ふっ、と嘲るような笑みがたたえられる。
「割とすぐ。昼休みにおまえ、何も言わなくてもスマホ渡してきただろ?」
愕然とした。
自分の詰めの甘さに。
「まあ、でもこれで分かっただろ。おまえは俺に敵わないし、俺から離れらんない」
強いられてきた“当たり前”が、いつの間にか本当にそうであるかのように刷り込まれていたんだ。
あのときは何も考えていなかった。無意識に従っていた。
自分でも気づかないうちに、彼に取り込まれていた。
「あー、ついでだから教えてやるよ。もうくだらない駆け引きも必要ねぇし」
がっ、と再び髪を掴まれ、上向かされる。
冷酷な双眸に捕まった。
「そのときした話……おまえが俺を庇って怪我したってのは嘘。あのとき何があったのかなんて知るか」
驚いて瞳が揺れるのを自覚する。
ということは、彼がその場にいたというのもきっと嘘。
「ぜーんぶ星野が勝手にやったこと。なのにまんまと騙されて……おまえって、ほんっとばかだな」
「……っ」
目の前が揺らいで歪んだ。
きゅ、と喉の奥が締めつけられて思わず唇を噛み締める。
それでも涙は止まることなくあふれていった。
張り詰めていた糸が切れたような、ひびの入ったガラスが砕け散ったような、些細だけど強烈な感覚が全身を突き抜ける。
心が、折れてしまった。