嘘に恋するシンデレラ

(確かに……)

 星野くんは自らの意思でわたしを殴った、とほとんど白状していた。
 だけど隼人は“自分に襲いかかってきた”と言っていた。

 そこの辻褄(つじつま)が合っていなかったのに気づけなかった。
 (ほころ)びは確かにあったのに、わたしが見落としていただけ。

「う、ぅ……」

 口元に手の甲を押し当てて(むせ)び泣いた。

 いったい何なのだろう。
 彼らは、その思惑は、これまでの時間は、わたしの記憶は────。

 ふわ、と唐突に柔らかい風が起きて、はっと目を開けた。

 隼人の腕の中にいる。
 そう認識した途端、温もりと優しい感触が身体に浸透(しんとう)してきた。

「……ごめん」

 ようやく正気に戻ったみたいだ。

 だけど、涙が止まらない。
 いまは、抱き締められても苦しい。

 髪を引っ張られた痛みも、横腹を蹴られた痛みも、頬を打たれた痛みも、冷たい言葉に(えぐ)られた心の痛みも、全然消えてくれない。()えてくれない。

 長い長い階段から突き落とされたまま立ち上がれない。

「本当にごめん、こころ」

 落ちた涙が染みてひりついた。

 ────わたしは、この人といても“幸せ”になんてなれない。



 日が落ちた頃、彼の家を出た。

 風が吹くたび、針のむしろを押し当てられているようだ。
 身体中の傷が染みて痛い。

「…………」

 急速に(みじ)めになった。
 目の前がぼやけて滲む。

 いつまでこんなことを繰り返すんだろう。
 どうすれば、わたし自身を救えるんだろう。

 歩道橋にさしかかったとき、先の方に人影が揺れた。

 誰かなんて考えなくても分かる。
 ()()()先にいるのは彼しかいない。

 思わず逃げてしまおうかとも思ったけれど、その場から足が動かなかった。
 歩み寄ってきた彼がわたしの目の前で立ち止まる。

「……大丈夫?」

 ためらいがちに声をかけられ、慌てて顔を伏せた。
 見られたくない、と思ったけれど、伸びてきた彼の手が輪郭(りんかく)に届いてしまった。

「ここ切れてるし、頬も……」

 唇を噛み締めたとき、鉄のような味がした。
 ここ、が唇の端を指しているとそれで気がつく。

 心底案じてくれる眼差しから逃れようとした。
 (いたわ)るようなその手を払いたかった。

 なのに、どうしてもできなかった。

 滲んだ視界が歪み、膨らんだ涙がこぼれ落ちる。
 次から次へ、傷に染みても止めどなく。
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