嘘に恋するシンデレラ

「こころ」

「わたし……何にも見えてなくて、すぐ騙されて、信じたいものだけ信じちゃって……もう、どうしたらいいのか分かんない」

 言いながら溺れているような感覚になった。

 都合がいいのは分かっている。
 だけど、信じる勇気が出ない。

 ふわりと甘くて優しい香りに包まれた。
 抱き締めてくれた星野くんの温もりで、不思議と強張りがほどけていく。

 あんなに痛かったはずなのに、まるで魔法みたいだった。

「……それでも僕に話してくれた」

 ────少なからずわたしには、星野くんのもとへ戻る意思があったのだと自覚する。

 そのあとどうするかなんてまるで考えていなかったけれど、確かに彼の優しさを求めていた。
 折れた心を癒してくれる、すりきれた全身に染み渡る、そんな優しさを。

「信じていいよ、僕は絶対に裏切らないから」

 ますます涙があふれていって、しがみつくように彼の背中に腕を回す。

 もう迷いたくない。
 星野くんを信じたい。

 彼もまた何かを隠して嘘をついているかもしれない。
 それでも、ちがう。
 隼人は自分のための嘘だったけれど、星野くんはわたしのための嘘。

『こころのためなら何でもできるって言ったのも本心だから。きみには誰より幸せでいて欲しいと思ってる』

 わたしのためにくれる優しさと強い覚悟は、最初から一度も揺らがなかった。

「いままで疑ってごめん……。大事なこと、色々忘れちゃってごめんね」

 いっそう腕に力を込めると、ふっと柔らかい笑みが降ってくる。

「大丈夫、どんなこころもこころだよ。僕の大好きなこころ」

 春の陽射しみたいな想いに触れて、何だかくすぐったい気持ちになった。

 空洞だらけだと思っていた心が満たされていくのを実感する。
 やっぱりわたしには、彼が必要だ。

「僕がこころを幸せにしてあげる」

 星野くんの手を取って、今度こそ隼人に別れを告げる。
 その覚悟を決めた。



     ◇



 ふたりで学校への道を歩きながら、隼人にメッセージを送る。

【話があるの。学校着いたら裏庭に来て】

 うまくいくだろうか。
 緊張で速まる鼓動をおさえるように胸に手を当てる。

「僕がついてるから大丈夫。何かあったら守るよ」

「……ありがとう」

 自然と肩から力を抜くことができた。
 いまなら勇気を出して向き合えるような気がする。



 ひとけのない裏庭のベンチに座って待っていると、やがて角から隼人が姿を現した。

 わたしはそっと立ち上がる。
 悠然(ゆうぜん)とした動作で星野くんも腰を上げた。

「……何でおまえがいんの?」

 彼を見るなり隼人は不服そうに眉をひそめるけれど、星野くんは取り合うことなく厳しい眼差しを突き返す。

 空気が(とが)るのを肌で感じながら、わたしは口を開いた。

「隼人、わたしと別れて」
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