嘘に恋するシンデレラ
笑っているけれど、その目は鋭く隼人を捉えていた。
「きみ、結構狡猾でさ、こころに別れを切り出されてからは大人しくなったんだよね。お陰で暴力も立証できなかった。実害でもあればこっちも手を打てたけど……」
彼の顔から笑みが消える。
憎々しげに隼人を睨めつけた。
「だから作り出したんだよ、その実害を。きみがこころを逆恨みして危害を加えたように見せかけようと。それなら、きみやこころが拒んでも警察を頼れる」
圧倒されながらも、まだわたしの中の一部は冷静だった。
そうか、と納得している。
額に残っていた傷が中途半端だったことも、階段から突き落とされたのに無事だったことも、わざとだったんだ。
悪意なんてなかった。
本当は、わたしを守ってくれようとしただけ。
「それでぜんぶきみのせいにして、金輪際こころに近づけないようにしてやろうと思ったのに……」
星野くんがわたしに目をやる。
困ったように肩をすくめて笑った。
「まさかこころが記憶をなくしちゃうなんてさ。とんだ誤算だった」
ぎゅう、と胸が締めつけられるように痛む。
(……見えてきた)
彼はわたしが記憶を失ったことを利用して、記憶が戻らないうちに隼人が悪者だと刷り込もうとしたんだ。
記憶喪失は確かに想定外だったかもしれないけれど、ないならないで構わなかったわけだ。
自分のことも覚えていないけれど、隼人のことも忘れてくれているから。
過去や思い出を切り捨て、リセットされたわたしとやり直そうとした。
記憶を取り戻して欲しくないように見えたのはやっぱり勘違いじゃなかったし、そういう理由があったんだ。
「……っ」
ふいに耳鳴りがして、ずきん、と頭が痛くなった。
『あのさ、そういうのって一方的に決められると思ってんの?』
聞き慣れた隼人の不機嫌そうな声が響く。
『俺が頷かない限り、関係は終わらない。だから“別れる”とか二度と言うなよ。次言ったらどうなるか、おまえなら分かるよな?』
────思い出した。
前にもこんなふうに別れを切り出したけれど、彼はそう言って受け入れてくれなかったんだ。