嘘に恋するシンデレラ

 腹立たしい感情を押し込めた結果、むしろ笑いが込み上げてきたというような様子だ。

 だけど優しい彼は、直接わたしを責めもしない。
 罪悪感で押し潰されそうになる。

「ごめ────」

「だったらちょうどいいよな」

 小さく謝りかけたわたしを(さえぎ)ったのは隼人だった。

「もう、こころのことなんてどうでもいいんだろ? だったら今後一切、俺たちに関わるな」

 きっぱりと言いきって、決然と星野くんを見据えている。
 わたしはただおろおろしたまま、ふたりを見比べることしかできなかった。

 星野くんもまたわたしと隼人のそれぞれに目をやっていたけれど、不安そうな雰囲気はない。
 単に悠々(ゆうゆう)と眺めていた。

 やがてその口元に冷たい笑みが浮かび、すっと視線が逸らされる。

「……言われなくても」



 ────星野くんが歩き去ってふたりきりになる。
 何だか、どっと精神がすり減った。

 呆然(ぼうぜん)と立ち尽くしてしまうと、ふいに後ろから抱き締められる。

「ごめんな」

 思わぬ言葉に戸惑ってしまう。

「昨日のこと。……てか、昨日だけじゃないけど」

 見えないけれど、ばつが悪そうに目を伏せている表情が浮かんだ。

「でも、今度こそ誓うから。もう二度とあんなことしない。おまえのこと大事にする」

「…………」

「最後の機会、くれないか? もう1回だけでいいから、俺を信じて欲しい。俺にはおまえしかいないんだよ」

 それを聞いたわたしは一度、口を結び、ふとその力を抜く。
 彼の手を掴んでほどいた。

「もう遅いよ」

 思っていたより穏やかな声色になったものの、怯まず言えた。
 振り向くと、彼はわずかに目を見張る。

「もう、騙されないから」

「こころ────」

「何度も傷ついたし怖い思いもしたけど、一緒にいて楽しかった時間もあったよ。でも、もう戻らない」

 記憶を失ってから真っ先に思い出したのがそうだったように、彼との時間がすべて悲劇だったわけじゃない。

 だけど、そんな思い出は痛みで上書きされて褪せてしまった。

「これ以上、隼人の隣にはいられない」

「……待てよ」

 はっきりと告げて背を向けるも、不機嫌そうに低められた声に足を止める。

「俺がそんなの許すわけねぇだろ。勝手に終わらせてんじゃねぇよ」

「隼人が許さなくても、わたしが決めたことなの。今度わたしに近づいたら警察に行くから」

 いままでなら怖くて言えなかったけれど、不思議と勇気が湧いてきた。
 きっと、星野くんの強い覚悟に触れたお陰。
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