余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
 気持ちが地の底まで落ちていく。けれど、逆に迷いがなくなった。

「……難しいことはわかりました。でも、白藍にはどうしても病気を知られたくない人がいるんです」

 母と楓はなんとなく感づいたかもしれない。私が夏くんと仲よくしているのを知っているから。

 脳外科医である夏くんは、私がどうなるかも全部わかってしまう。友人が助けられない状態だと知ったら、つらい思いをするに違いない。

 それに白藍に入院したら、彼は私を患者として見るようになるだろう。結ばれることはないとしても、私は最期まで女として見られていたい。医者と患者という関係にはなりたくない。

 母からも少し説得されたが私の気持ちは変わらず、最終的に本人の意思を尊重しようという流れになった。手術してもらえるかはわからないがこちらも信頼できるとのことで、東京の大学病院を紹介してくれた。

 柏先生は『僕が勝手に連れてきたんだからお代はいつでもいいよ』と言ってくれたが、そこまで甘えるわけにはいかない。きっちり支払いを済ませて何度もお礼を言い、クリニックを後にした。

 楓の愛車に乗り込んでからも、まだ現実味がなくてこれは夢なのではないかと思ってしまう。

 後部座席に母と一緒に座ると、母のほうが病人なんじゃないかというくらい青白い顔をして私の手をそっと握る。

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