余命1年半。かりそめ花嫁はじめます~初恋の天才外科医に救われて世界一の愛され妻になるまで~
「ごめん。一番つらいのは天乃だって、わかってるんだけど……」

 私も込み上げてくるものを必死に堪えて、何度もハンカチで頬を拭う母の肩を抱く。母だって同じくらいつらいはずだ。こんな思いをさせて本当に申し訳ない。

 楓もいろいろと思うところがあるだろう。彼は静かに運転を続け、車内にはしばらく母のすすり泣く声が響いていた。

 家に着くと、車の音でわかったのか父が玄関から飛び出してきた。事情は楓がメッセージで知らせているはず。血の気が引き、焦燥に駆られたような面持ちで私に駆け寄ってくる。

「天乃……」
「私、悪性脳腫瘍の可能性が高いって」

 普段おしゃべりなのに珍しく言葉を詰まらせる父に、無理やり口角を上げて伝えた。彼の瞳が潤み、赤くなっていく。

「ごめんね。お父さんたちより、長生きできないかも」

 病名を聞いた時も、余命を知った時も涙は出なかったのに、泣きそうな父の顔を見たら我慢できなくなった。

 一気に視界が滲む中、父は私の両腕を掴んで頭を垂れる。

「俺が、代わってやりたい」

 絞り出すような声が耳に届いて、ぼろぼろと塩辛い雫がこぼれた。

 私たちを照らすまん丸な月は、悔しいくらいに明るく、綺麗だった。


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