愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

「お父さん、じゃあ今日はこれで上がるね」

「ああ。楽しんでおいで」

 昼過ぎから紅葉亭の手伝いに来ていたが、今日は開店準備を整えたら仕事は終わりだ。
 そろそろ従業員の丹羽さんが来る予定で、店は私がいなくても十分に回っていく。

 この後は千隼さんと待ち合わせをして、久しぶりに食事に出かける約束をしている。
 父と共に仕込みをしていた料理人の岡本さんにも挨拶をして、店を後にした。

【すまないが、少し遅れそうだ。着いたら近くのカフェにでも入って、待っていてくれないか】

 移動中に受け取った、千隼さんからメッセージに目を通す。
 もともと予約よりも早めに落ち合う予定だったから、少しくらい遅れても問題ない。おまけに楽しみにしすぎるあまり、千隼さんとの約束の時間までもずいぶんと余裕があった。

 約束をしていた、彼の職場付近へ向かう。
 霞が関の駅周辺はあまり立ち寄らないが、意外とカフェがたくさんあるらしい。ビジネスマンが商談に利用するため、かなり需要があるようだ。

 遅れる旨を伝えてきた彼のメッセージには、お薦めのカフェの情報まで追加されていた。その過保護さに苦笑しながら、教えられた店を目指す。

 教えてもらったカフェは、隼さんの勤める外務省の目と鼻の先にある場所だった。
 おひとり様でも入りやすそうな、落ち着いた雰囲気にほっとする。

 席はほどよく埋まっており、パソコンを開いて作業をしている人もいれば数人で話し込んでいる人もいる。騒がし過ぎず、けれども静かすぎるわけでもないところが心地よい。

 美味しそうなチーズケーキがお薦めとあるけれど、食事前だから断念する。いつかまたこの辺りにきたときは千隼さんと食べてみたいと思いつつ、オーダーはコーヒーだけにとどめた。
< 101 / 154 >

この作品をシェア

pagetop