愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 窓際の席に座り、外を眺めながら千隼さんの到着を待った。

 目の前の通りには、スーツ姿の人がたくさん行き来している。
 紅葉亭では陽気な姿を見せる常連客たちも、日中はこんなふうに忙しくしているのだろうか。
 気を張った一日を終えてから気晴らしに飲みに来てくれているのかと、見知った人の知らない姿を想像した。

 入店からどれほど経っていただろうか。隣に人の立つ気配に気づいて、顔を上げた。

「え?」

 千隼さんが来たのだと疑っていなかったが、思わぬ人物の登場に表情が強張る。

「お久しぶりですね、小春さん」

「山科、さん……?」

 どうして彼女がここにいるのか。
 通りがかりにたまたま私を見かけたにしても、過去の話を聞いて以来、気軽に声を掛け合うような関係にはない。
 そう感じているのは私だけで、彼女は違うのだろうか。

「驚かせてしまったかしら」

「い、いえ」

 どう対応すればいいのかわからず、そわそわする。

「実は、千隼先輩にお願いされてきたの」

「千隼さんに?」

 つい胡乱げな声音になってしまう。
 私がここで彼を待っていると、山科さんに話すとはどんな状況なのか。顔をしかめる私に、山科さんは小さく苦笑した。

「ここ、失礼するわね」

 許可を取るでもなく、止める間もないまま彼女は当然のように向かいの席に座った。

「すぐに対応しないとならない仕事ができて、彼、急いでいたのよ。ちょうど帰ろうとしていたところで先輩を見かけて、焦っているようだったからどうしたのか尋ねたの。そうしたら、すぐそこの店に小春さんがいるからよかったら少し相手をしてほしいと頼まれてしまって」

 山科さんとの詳細なやりとりを、千隼さんには明かしていない。
 ただ、彼が紅葉亭へ複数人で来てくれた際に彼女も一緒にいた。だから、私と面識があるのは千隼さんも把握している。

 困った顔になる山科さんを、遠慮がちに見つめた。
 彼女に声をかけたのは、予想以上に遅れそうだという千隼さんの配慮なのだろうか。
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