愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「お手を煩わせてしまって、すみません。私、ここで彼を待っているので、だいじょ……」

「先輩ったら、人を都合よく使っちゃって。まあ、昔からそんな気安い関係だったから、べつにかまわないんだけどね」

 子どもでもないのだから、ひとりで待っていられる。
 わざわざ来てもらって申し訳ないが、遠慮しようとしたのに山科さんがそれを遮った。

 彼女の物言いは、千隼さんとの親密さを匂わされているようで心がざわめく。
 ここ最近は忘れていた不安が、じわじわと私の心を支配していく。耐えられず、視線を手もとに落とした。

「小春さん、紅葉亭の手伝いは頻繁にされているの?」

 正面に座る彼女を、チラリ覗き見る。
 こちらの心情に気づいていないのか、山科さんはいたってマイペースな様子だ。肘をついて両手を組み、その上に顔を乗せて私を見据えた。

 感じのよい笑みを浮かべながら尋ねられたというのに、言葉の裏を想像して責められている気になってしまう。
 実家の手伝いは、千隼さんを蔑ろにしても続ける価値はあるのかと、彼女の鋭い視線が問いかけてくるようだ。

「え、ええ。毎日では、ないですけど」

 声はわずかに震え、小声になっていく。
 正直に答えた私に、山科さんは眉間にしわを寄せた。

 どんな表情をしても、美人の彼女は様になってしまう。
 スタイルのよさを強調するタイトなスーツをピシッと着こなす姿は本当にカッコよくて、悩ましげな表情がそこへさらに色気を加えている。
 この人には敵わない。この完璧な外見だけでも、そう思わされてしまう。

「外交官の妻が、それでいいのかしら? これでは千隼先輩が、あまりにもかわいそうだわ」

 山科さんには、よく思われていないのだろうとわかっていた。
 おそらく彼女は今でも千隼さんへ好意を抱いており、彼の妻となった私を疎ましく感じている。

 とはいえ、これほどストレートな物言いをされたのは初めてだ。その口調も、友好的とは言い難かった。
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