愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「私が紅葉亭で働くのは、千隼さんから提案してくれたので」

 言い訳のように聞こえるのを承知で、事実を明かす。
 
 彼と話をして一度は躊躇したが、私がなにを望んでいたかなど千隼さんにはお見通しだったのだろう。
 彼はこの件について父ともやりとりをして、私の希望に添うように話をまとめた。
 自分の実家ばかりを優先するようで気が引けたが、義父も快く承諾してくれている。

「千隼先輩は、優しすぎるから」

 山科さんはそこで言葉を切ったが、卑屈になっているせいか〝辞めろとは言えなかったのよ〟という続きが聞こえるようだ。

 私の現状は、他者から見たら彼の優しさに付け込んで好き勝手しているように映るのかもしれない。
 彼女の鋭い視線い耐えきれなくて、再びうつむいた。

「赴任先の国の治安が悪化する中、結婚したばかりの奥様は帰国したまま戻ってこない。それを先輩は、どう思っていたんでしょうね」

 声を荒げるわけでも嫌味な言い方をするでもなく、山科さんは事実を淡々と述べていく。

「遅くに帰宅しても、結婚したはずの妻は不在続き。慣れない土地で、食事の用意ひとつとっても大変だったに違いないわ」

 私の至らなさをひたすら指摘する彼女の言葉に、精神的にどんどん追い詰められていく。
 正論過ぎて、言い返すなんてできなかった。

 やはりあのとき、周囲の反対を押し切ってでもベルギーに戻るべきだったのだろうか。そもそも、父がケガを負ったとしても帰国するべきではなかったのか。
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