愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

「小春、なにか困っていないか?」

 山科さんと対峙してから一週間が経ったが、気分はふさぎ込みがちになり、千隼さんを困惑させている。それはわかっているが、自分でもどうしようもできない。

「大丈夫だよ」

 彼女について千隼さんに聞くのを避け続けて、ひたすら「大丈夫」と繰り返している。
 私たちはもう夫婦なのだし、簡単に揺らぐ関係ではない。そう信じたいのに自身が持てず、彼の前で上手く笑えなくなってしまった。

 私がまったく大丈夫でないのは、一目瞭然なのだろう。
 千隼さんに心配されるほどさらに追い詰められていくような気がして、空元気を演じてしまう。
 聡い彼がそれに気づかないはずがなく、ふとした折に眉を下げて私を見つめてきた。

 その悪循環から抜け出せなくて、息苦しくて仕方がない。

 なにかと彼に気を遣わせて、困らせるしかできない私はやっぱり彼にふさわしくないのかもしれない。
 彼と同じ職に就き、その苦労も苦悩も知っている山科さんだったら、堂々と千隼さんの隣に立てるのだろう。私のように、なにかを負い目に感じることもなく。

「明日は、紅葉亭に行く日だったな?」

 早く帰宅した千隼さんは、夕食後にリビングへ私を誘った。隣り合って座り、私の右手を掬い上げて両手でそっと包み込んだ。

「う、うん。あっ、でも、そろそろ家のこともちゃんとしないとだめ、だよね」

 彼と視線を合わせる勇気はなくて、うつむきがちに彷徨わせた。

「家のこと、とは?」

 唐突に切り出した私に、どうしたのかと千隼さんが首をかしげる。

「その、夜は自宅にいて、夕飯をちゃんとつくって千隼さんを迎えるのが本来の夫婦なのかなって」

 この一週間、千隼さんの役に立つにはどうしたらいいのかずっと考えていた。
 矢野家は後ろ盾になるような力はないし、私では仕事の大変さんも彼女のようには理解してあげられない。それなら、せめて生活面で彼を支えたい。
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