愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「本来の夫婦って、なんだ?」

 千隼さんの声に、怒りは感じない。ひたすら私を理解しようと努めてくれているのだと、その口調から伝わってきた。

「それは……」

 なんて言えばわかってもらえるのかと逡巡する。
 そうしいる間に、千隼さんの方が先に口を開いた。

「小春の言う夫婦像って、夫が帰宅する頃には必ず妻が在宅していて、夕飯を提供してくれるというものか? それと比較したらわずかにずれている俺たちは、夫婦とは言えなと?」

「そんなことない。けど……」

 彼の言葉を否定しなければと、ガバリと顔を上げる。
 視界に飛び込んできた千隼さんの表情が寂しそうに見えて、途端に勢いを失った。

「なあ、小春。なにが正解かなんて、当事者が決めればいいんじゃないか?」

 そうかもしれないが、どうしたって周囲の視線は気になってしまう。
 山科さんだけでなく、店に来る彼の同僚の中には、実家とはいえ遅い時間まで働く私をよく思わない人もいるかもしれない。

「俺の実家みたいに、家庭内よりも外とのつながりを大事にする夫婦もいる。そこに生まれてしまった俺としては、幼い頃にまったく不満がなかったとは言わない。けどな、大人になってからでも親子の距離は縮められるし、また違った関係性を築いてもいける」

 自分と父親との仲を、彼は前向きに捉えている。
 幼少期の関係がどうだったか詳しくはわからないが、私はぎこちない親子が次第に打ち解けていく様子を目の当たりにしてきた。

 なんだかんだと実父を邪険にしがちな千隼さんだが、本気で拒絶しているわけではない。
 義父が少々のワガママを言っても、最終的に彼は「仕方がないな」と許している。
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