愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「俺の両親は、一般的とはかけ離れているんだろうな。だが当事者である俺は、それを悪いとか間違っているとは思っていない。家族のかたちは、その時々で変化させていけばいいんじゃないか?」

 彼の表情の変化を見逃さないように、じっと見つめた。

 本人の言うように、幼少期はたしかに辛い経験をしてきたのだろう。
 けれどそこに遺恨はないのだと、陰りのない彼の表情から悟った。

「なあ、小春。誰がなんと言おうと、俺は今の生活に不満はない。もちろん、ふたりきりの時間は大切にしたい。それと同じように、紅葉亭のアットホームな雰囲気を感じていたいんだ。あの場所が、俺と小春の出会いの原点だから」

 千隼さんになにかを我慢させてまで、今の生活のスタイルを守りたいわけではない。そこに私へ遠慮や配慮はないのだろうかと、彼の瞳を見つめた。

 私が彼の言葉をまだ信じきれていないのを察したのか、千隼さんが眉を下げて苦笑する。

「俺はね、小春。紅葉亭で働く、明るくて元気な小春を見ているのが好きなんだ」

 現金にも、千隼さんの口から〝好き〟と飛び出しただけで、鼓動がドキリと跳ねる。

「常連客らの冷やかしは……うん、それはともかく、彼らや正樹さんと話すのは楽しい。小春が俺だけのためにつくってくれた料理はどれも美味しくて、周囲に自慢したくなるほどだ」

「ほ、褒めすぎだから」

 言葉を惜しまない千隼さんに、頬が熱くなる。

「小春とふたりで帰る夜道も貴重な時間で、こうして自宅で一緒にいるのとはまた違って気に入っている。だからな、小春」

 千隼さんが正面から私を見つめる。その真剣な眼差しに、視線が囚われてしまう。
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