愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「今の生活スタイルが、俺たちらしいんじゃないか。もちろん、小春になにか不満があるなら、あらためるが……」

「不満なんて、ひとつもないから」

 それだけは誤解させたくなくて、彼の言葉を遮って否定した。
 わずかに驚いた顔をした千隼さんは、前のめりになる私を小さく笑った。

「そうか。ならよかった」

 漂っていた緊張感が、徐々に緩んでいく。

 山科さんの指摘にすっかり打ちのめされていたけれど、千隼さんが認めてくれるのならかまわないのではないか。
 彼女の理想と千隼さんのそれは違うのだと、彼自身が教えてくれた。

 彼の仕事を支えるのは難しいかもしれないが、いつか同伴をお願いされたときに足を引っ張りたくはない。そのために勉強を続けているし、次に彼の海外赴任が決まったときは必ずついていくと覚悟を決めている。

 努力はまだまだ足りないのかもしれない。山科さんと比較したら、いたらないところばかりが目に付いてしまう。

 でも千隼さんは、それでいいと言ってくれる。
 彼の許容に甘んじるつもりはないが、必要以上に自分を卑下する必要はないのだと思えてきた。

「それにしても、急にどうしたんだ?」

 ふと肩の力が抜けたところで、千隼さんが尋ねてくる。

 仕事の後に待ち合わせをしたあの日、私と山科さんが顔を合せたのは、千隼さん自身が彼女にお願いしたくらいだから当然知っているはずだ。
 そこでやりとりを明かしたら、千隼さんは気を悪くするかもしれない。なにより、この場に不穏な話題を持ち込みたくなかった。
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