愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

「寒いね」

 十五時間弱のフライトを経て、無事にブリュッセル空港へ到着した。

 外に出た瞬間に思わずこぼれたひと言に、千隼さんも「本当にな」と同意した。

 三月の下旬と言えば、東京なら気温は十五度に達する日が増えて春らしさを感じる頃になる。
 それに比べて、この時期のベルギーはまだ十度を下回る日も多い。日本から来た私たちからすれば、季節が少し前に巻き戻ったように感じる。
 忘れつつあった寒さのぶり返しに、つい全身が強張ってしまう。

「小春、ほら」

 プロポーズを承諾してから、千隼さんは私を〝小春〟と呼ぶようになった。
 逆に私は、彼に請われて気楽な言葉遣いをするようにしている。
 些細な変化なのに、心の距離がずいぶん近づいたようで日々幸せを噛みしめている。

 差し出された千隼さんの手に自身の手を添えると、ぎゅっと握ってくれた。

 結婚が決まってからというもの、デート中は自然に手をつながれるようになった。免疫のない私は、それだけで頬が熱くなる。

 さらに別れ際に額に口づけられたときには、ピキリと固まってなにも言えなくなってしまった。
 男女の付き合いに慣れておらず、女性らしい反応が返せない。これでは彼に呆れられてしまいそうだと不安になったが、千隼さんはそれも含めて受け入れてくれているようだ。

 結婚したとはいえ、私たちはまだ一緒に暮らしてはいなかった。
 まさに今日から、夫婦としての生活をスタートさせる。

「行こうか」

 まずは新居に向かう。
 大使ともなれば公邸で暮らすが、それ以外の職員は官舎が用意されている国もある。そうでない場合は、指定された地区の借家に住むのが通常だ。

 私たちはあらかじめ用意されていた借家で暮らす予定だが、足を運ぶのはふたりともこれが初めてになる。

 スタンドへ行き、予約してあったタクシーに乗り込む。ベルギーでのタクシー利用はこれが通常で、逆に流している車は詐欺の可能性が高いのだという。
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