愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 運転手の対応をする、千隼さんの流ちょうなフランス語に耳を傾ける。

 ベルギーでは、公用語が三つも存在する。地域によって使われる言語が違うのだが、中でもオランダ語の一種であるフラマン語が一番使用されている。それにフランス語、ドイツ語と続く。

 日本大使館のあるブリュッセルはベルギーの中央に位置しており、フランス語が主流だ。
 まったく知らない言語でないことにほっとしたけれど、大半は忘れてしまっている。そのため、あらためて語学の勉強をしてきた。
 
 でもまだ十分とは言えず、当面の課題は言語になりそうだ。それについては、千隼さんが練習に協力してくれると約束している。

 事前に調べてきた知識と照らし合わせながら、興奮気味に街並みを眺める。

 ブリュッセルと言えば、世界でもっとも美しい広場に上げられる『グラン・プラス』が有名だろう。
 その周囲には市庁舎や王の家、ギルドハウスなどが立ち並び、写真で見るだけでも荘厳さに魅せられた。夜にはライトアップされているようで、時間ができたらぜひふたりで訪れてみたい。

 それからマグリット美術館も絶対に行きたいし、夏だけ公開されている王宮も気になっている。

 観光で来たわけではないとわかっているものの、ついそんな想像をして頬が緩んだ。

「小春」

 千隼さんに呼ばれて、ハッとする。
 慌てて隣に視線を向けると、彼はおかしそうに私を見ていた。

「しばらくはバタバタするだろうが、落ち着いたらふたりでたくさん出かけような」

 私がすっかり浮かれていたのは、彼にはお見通しだったようだ。

「約束ね」

 私たち夫婦は、お互いに知らないことの方が多い。
 でも、時間はたくさんあるのだから焦りはしない。

 本やネット見た美しい観光名所を想像するだけでもワクワクするが、千隼さんと一緒なら、家の近所を散歩するだけでも退屈はしないだろう。

 不安もあるけれど、きっとふたりで乗り越えて楽しい新婚生活が送れるだろうと、期待に胸を躍らせた。
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