愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
『それは面白い! その繊細さが、なんとも日本人らしい』

 隣に立った千隼さんが、満足そうにうなずいている。

『日本酒は、洋風のお料理にもペアリングが可能だと私は思っています』

 自国のアピールは大切だが、一方的になってはいけない。そんな考えから、セイナーヴェさんに提案をした。

『料理に合わせてお薦めすれば、より日本酒に興味を持っていただけるかもしれませんね』

 好みの日本酒をと言われたら、数種類挙げるのは可能だ。
 けれど私は、料理とセットで考える方が自然だと感じている。それは長年、祖父や父と共に紅葉亭で働いてきて培われた感覚だ。

『素晴らしい!』

 大げさなほどの反応を見せたセイナーヴェさんは、それから真剣な顔になり、千隼さんと相談をはじめた。
 専門的な言葉も飛び出し、十分には理解できない。けれど、さっきの様子から想像するに、悪い話ではないのだろう。

 しばらくして、話を終えた千隼さんが私の方を向いた。

「小春、お手柄だ」

 私の話に興味を持ってくださったようで、セイナーヴェさんは日本酒に詳しい人物といくつかの酒蔵を紹介してほしいと申し出たようだ。
 ベルギー国内でさらに日本酒が流通するよう動きだすかもしれないと聞いて、想定外の話に逆に怖くなる。

「大丈夫だ、小春。彼はさらに、和食にも興味津々のようだ」

 千隼さんが大丈夫だと言うのなら、それほど心配しなくてもいいのだろう。

 日本の文化を世界に広めていきたいと、前に千隼さんが話してくれた。
 それは諸外国との相互理解のきっかけになり、良さを知り合えば争いごとの抑止にもつながっていくからと。

 話を聞いた当初は、国を背負う千隼さんたちにしかできない大きな仕事だと捉えていた。
 けれど、さっきのセイナーヴェさんの興奮した様子を見て、微力とはいえ自分も千隼さんの願いを叶える小さな貢献ができたのかもしれないと気分が高揚する。

「上手くいけば、販路拡大にもつながるだろう」

「役に立てたみたいで、よかった」

 緊張も解れ、自然と笑みが浮かぶ。そんな私を、千隼さんは目を細めて見つめた。 
< 131 / 154 >

この作品をシェア

pagetop