愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 それから何人かと言葉を交わした後に、彼は「すまない。少しだけ離れるが、大丈夫か?」と申し訳なさそうにしながら、人ごみに紛れていった。

「小春さん、お疲れさまです」

 千隼さんが立ち去って少ししたところで声をかけられ、ピクリと肩が跳ねた。

「お、お疲れさまです……山科さん」

 彼女がこの会に参加することは、あらかじめわかっていた。
 人ごみに紛れていればその姿を視界に捉えはしないだろうと踏んでいたが、まさか向こうから声をかけられるとは思っておらず、気まずくて仕方がない。

 今夜の彼女は、ネイビーのシックなドレスを纏っている。落ち着いた中にも華やかさのある装いで、彼女のスタイルのよさが十分に引き出されている。

「私に指摘されて、ようやく自覚した。というところですか」

 周囲に聞こえない程度の声量でそう言われたが、彼女と対面した途端に冷静さを欠き、なにを言われているのか上手く理解できない。

「遅いんですよ、今さら外交官の妻面したところで」

 辛辣な物言いにようやく言いたいことがわかり、表情が引きつる。

「見ての通り、千隼先輩は人望もあって優秀な人なんです」

 彼女の視線を辿れば、その先には複数の要人に囲まれた千隼さんの姿があった。
 そんな中にあっても彼は堂々としており、私の存在など必要としていないように見えてしまう。

「あなたでは、彼を支えきれない。現に、あの場へ同行するように求められていないじゃないですか」

 私を伴っていては、話がスムーズに進まない。だから彼は、ひとりで行ってしまったのかもしれない。

 おいていかれたのは事実だから、なにも反論ができない。

 こういう場には、パートナーの同伴が必須だ。千隼さんくらいの年齢になれば、徐々に妻を伴う人も増えていたのだろう。
 だから彼も、結婚を望んだのかもしれない。

 セイナーヴェさんとやりとりは、ビギナーズラックにすぎないくらい私もわかっている。
 知識も経験も足りない私では、どうしたって同伴者として心許ないのは当然だ。

 山科さんだったら、彼にとって大きな戦力になったに違いない。
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