愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「ちょっといいかしら」

 女性が立ち去ると、山科さんの表情から親しみが消える。
 厳しい視線と棘のある口調にビクリとしながら、促されるまま彼女に従う。
 そうして、パーティーの開かれている会場の外へと連れ出された。

 周囲に人はおらず、会場内の賑やかさが嘘のように静まり返っている。
 彼女は入口から遠ざかり、私を壁際に追い詰めた。それから、怒りのこもった鋭い視線で私を睨みつけてくる。

「あなた、さっきの方が誰だかわかっているの?」

 先ほどの女性は、私たちにおもむろに話しかけてきた。
 名乗らなかったのはマナー違反かもしれないが、意図あっての振る舞いだと察している。
 おそらく、私たちが身構えないようにという配慮だったのだろう。それは、終始気安い雰囲気を作りだしていた彼女の態度も物語っていた。

 背後に複数の人を従えて、明らかな上質なドレスを纏う女性。話かたは穏やかで、けれど凛とした様子に芯の強さを感じた。
 小さな仕草の一つひとつに気品があり、砕けた調子で話していてもその高貴さはにじみ出ていた。

 そしてなにより、口にした話題は教育について。

「王女、殿下かと」

 掠れる声でなんとか返す。
 途端に、山科さんの目がますます吊り上がった。

「わかっていて、あの受け答えだったのね」

 決して声を荒げるわけではないものの、彼女の怒りが伝わってくる。その勢いに押されて、身を縮こませた。

 自分ではわからないが、なにか礼を欠いてしまったのかと怖くなる。
 ひとつの成功に気をよくして、少しばかり浮かれてしたのかもしれない。あんなふうに自身の意見を述べてはいけなかったのだろうか。
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