愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「二度ほど、山科家との縁談が持ち上がっていたな」

 千隼さんは、ふと思い出したように話しはじめた。

「祖父も父親も大臣を務めるほどの山科家に、俺が提供できるものなどなにもない。両親の実家の影響力がほしいと言われればわからなくもないが、自分の功績でもないものを当てにされても困るだけだ。むしろ俺自身は軽視し、馬鹿にされているようで気分が悪い」

「馬鹿にするだなんて」

 山科さんにそんな気などないと、千隼さんだってわかっているのだと思う。
 彼女の小さなつぶやきを、千隼さんは気に留めずに続けた。

「俺なんかより、〝山科家〟にふさわしい相手はいくらでもいたはずだ」

 実際に、父親の秘書を務める男性との話があったと、彼女自身が話していた。
 彼女の出自を考えれば、それ以外にも縁談が持ち込まれていたかもしれない。

 千隼さんとはタイミングが悪くて流れてしまったように山科さんは言っていたけれど、実際は違うようだ。
 彼の言い分から察するに、おそらく山科家からの申し入れは千隼さんに断られたのだろう。

「どうして俺と山科の縁談話が出るのか不思議だったが、あれは山科の私情からだったのだな」

 ふたりの関係は、彼女に聞かされていたような親密なものではなかったと、千隼さんの言葉に確信を深めていく。

「わ、私は、学生の頃からあなたがずっと好きで……」

「初めて知ったな」

 千隼さんは、山科さんの告白に返事すらしなかった。
 なにかに耐えるように、手を握りしめた山科さんを見つめる。
 激情をやり過ごすと、彼女は再び口を開いた。

「あなたは私が告白しても受け入れてくれないと、わかっていました。だからお見合いというかたちで申し入れたのに、一度目はまだ早すぎると……」

 彼女は本当に、千隼さんを愛していたのだろう。
 長い付き合いを通して私以上に彼を理解しているだろうし、私の知らない千隼さんをたくさん見てきたはず。
 告げられなかった想いは、消えるどころかどんどん大きくなっていったのかもしれない。
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