愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「ずっと待って、あなたが国内に戻ったタイミングでもう一度申し入れたというのに、考えてももらえなかった。それなのに、この人との結婚はすぐに決めてしまって」

 山科さんが、睨むように私を見てくる。

「どうしてこの人なの! なんで私じゃだめなのよ」

 悲痛な声音に、胸が痛む。

「この人が、本当にあなたにふさわしいのならあきらめるつもりでいたわ。けれど、小春さんは自分のやりたいことばかりを優先して、まったく先輩を顧みないじゃない」

 自分にはそんなつもりはなくても、他人からしたら夫を蔑ろにしているように見えたのかもしれない。
 そう落ち込みかけていると、千隼さんが後ろ手に私の手を握ってくれた。

「納得がいかないから、先輩を返してもらおうと思ったのよ」

「そもそも俺は、山科のものになった覚えは一度もない」

 山科さんが、ショックを受けた表情になる。

「だ、だって……学生の頃から、私だけは特別だったじゃないですか。ほかの女性は、いっさい近づけさせなくて」

「あれはあくまで、友人のひとりとしてだ。それに、俺から君に近づいたことは一度もなかったと断言できる」

 親密どころか、友人と言っていいのかも怪しい希薄な関係性に密かに安堵する。
 山科さんには悪いけれど、私に対する彼女の言動にはずいぶんと苦しめられてきたのだから仕方がない。

「誰かに好意を寄せるのは、もちろん個人の自由だ。だが、相手の意志を無視して押し付けるのはあまりにも横暴だ」

 吐き捨てるように言った千隼さんに、山科さんがぐっと言葉をのみ込む。

「どちらにしろ、俺は山科の気持ちに応えられない。それは学生の頃でも結婚前でも、答えは同じだった」

「っ……」

「それから、無関係な小春を巻き込むのは絶対に許さない。さっき漏れ聞こえた会話から察するに、こうして小春を責めるのは初めてではないんじゃないか?」

 彼の視線に鋭さが増す。
 山科さんは肯定も否定もせず、うつむき気味に黙りこくったままだ。
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