愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

 ベルギーに来て一週間が経った。
 千隼さんはかなり多忙で、日付が変わる頃の帰宅が続いている。仕事は山積みなようで、疲労の見え隠れする様子を見ていると心配でたまらない。

 さらに、このタイミングで他国の大使を招いた晩餐会が決まったという。その準備もあって、千隼さんは着任早々かなり忙しくしている。
 
「小春、なかなか一緒にいてやれなくてすまない」

 忙しいのは仕方のないことで、千隼さんのせいではない。

「私は大丈夫だから」

 眉を下げて申し訳なさそうな顔をした彼に、明るい表情で返す。

 見知らぬ土地での生活には不安があるが、千隼さんは国のために日々奮闘しているのだ。そんな彼の邪魔をしたくないし、いつまでもこの状態が続くわけではないだろうから待っていられる。

「今日はマルシェに行ってみるつもりなの。千隼さんの仕事が落ち着いたときに私が案内してあげられるように、下見をしてくるから!」

 マルシェは私の憧れで、ぜひとも行きたいと思っていた。
 店主とのやりとりも言葉の勉強には打ってつけだろうし、たとえ伝わらなくても身振り手振りでなんとかなるはず。
 想像しただけでも楽しそうだと、彼が現状を負い目に感じないように笑ってみせた。

「気をつけて行ってくるんだぞ」

「はい!」

 ベルギーは、比較的治安のいい国だと聞いている。
 それでもスリや車上荒らしがそれなりに起きているようで、日本と同じ感覚でいるのは危険だ。
 十分に気をつけるようにと千隼さんにも繰り返し言われており、外に出るときは常に気を引きしめている。

「今夜も遅くなるだろうから、小春は先に休んでいて」

 出勤する彼を見送るために、玄関についていく。
 正面からぎゅっと抱きしめられて気恥ずかしかったが、私も同じように彼の背に腕を回した。

「それじゃあ、行ってくる」

 体を離した千隼さんが、私に背を向ける。途端に寂しさに襲われた。

「行ってらっしゃい」

 本心を悟られないように、明るく送り出す。
 そうして彼の姿が見えなくなると、途端にぼんやりとした。
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