愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「はあ」

 彼女の背が遠ざかり、千隼さんが大きく息を吐き出した。

「嫌な目に遭わせてしまって、すまなかった」

 彼はなにも悪くないと、首を左右に振る。

「小春。帰ったら話がしたいが、今は気持ちを切り替えて、あと少しだけ俺を支えてくれないか?」

 私を頼りにしていると感じさせてくれる言葉に、胸が温かくなる。

「最後まで、きちんと務めさせてください」

 王女殿下の件はどうなるのか、不安は尽きない。
 でも、ここで投げ出すなんて無責任なことはできず、彼と共に再び会場内へ入った。

 なにか問題が起こっている様子はなく、ひとまず安堵する。
 それから千隼さんと共に数人と挨拶を交わし、レセプションパーティーは無事に終わりを迎えた。

 帰り支度をはじめていた私たちのもとに、櫛田さんが近づいてくる。

「高辻さん、大丈夫でしたか?」

 彼は気づかわしげに私を見ながら、千隼さんに問いかけた。
 そういえば、私が山科さんに会場を連れ出されたのを千隼さんに知らせたのは彼だ。

 櫛田さんは私が山科さんと面識があると知っているはずで、ふたりでいたのはそれほどおかしな場面ではなかっただろう。
 それなのに、どうして彼はそんな行動に出たのか。

「櫛田が教えてくれたおかげで、助かった。ありがとう」

 ふたりの会話がよくわからず、首をかしげる。
 そんな私を見た櫛田さんが、小さく苦笑した。

「以前、高辻さんと共に紅葉亭へお邪魔させてもらったときに、山科の言動に違和感があったんです。アルコールに強いはずの彼女が、あんなふうに酔うなんてこれまでにはなかったし、やたらと高辻さんとの距離を詰めようとするから、なんか変だなって」

 やはりあのときの彼女の言動は意図的なもので、私に対する牽制だったのだろう。
 その後に千隼さんと抱き合っていた姿が脳裏によみがえってしまい、不快感から眉間にしわが寄る。

 ただそれも誤解がありそうだと、今なら冷静に考えられる。
< 142 / 154 >

この作品をシェア

pagetop