愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「二度目は、千隼さんと待ち合わせて食事へ行こうと約束していた日で」

「小春は体調を崩したのだとばかり思っていたが、違ったんだな」

 千隼さんが悔しそうな表情になる。

「正直に話せなくて、ごめんなさい」

「悪いのは小春じゃない」

 すぐさま否定した彼は、私の手を握っていた自身の手に力を込めた。

「千隼さんが来る少し前に、カフェで待っていた私のところに山科さんがやってきたの。彼女は、千隼さんに私を持たせているから話し相手になってくれないかと頼まれたって言ってた」

「頼んでなんかいない。おそらく、小春が待っているからと櫛田の誘いを断っているのを聞いていたんだろう」

 それすら彼女の嘘だったのかと驚く。

「山科さんには、千隼さんを返してほしいとまで言われてしまって。私がいなければ、ふたりは一緒になれたのかもしれないと思った」

 勘違いさせられていたともう知っているが、あの頃の不安がよみがえって声がわずかに震えてしまった。
 それに気づいただろう千隼さんが、隣からそっと抱きしめてくれる。

「小春、本当にすまなかった」

 彼の纏った服を、ぎゅっと握る。

「時折、元気がなくなっているのに気づいていた。それなのに俺は、なにもしてやれなかった」

「私が正直に話さなかったから。千隼さんはいつだって私を気遣って、やりたいようにさせてくれたわ。だから私、あなたが必要としてくれるなら全力で支えていこうって、前向きになれたの」

 忙しいにもかかわらず、彼はできる限り私との時間を優先してくれた。
 仕事帰りだって、まっすぐ自宅に帰って寛ぎたいだろうに、私がいるからと頻繁に紅葉亭まで来てくれた。

 こうして冷静になってみれば、千隼さんの私への献身ぶりが見えてくる。彼を疑う要素などなにもなくて、自分がどれだけ山科さんの言葉に揺さぶられていたかとわかってきた。
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