愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「俺は、自分のやりたいようにしただけだ」

 わずかに体を離した千隼さんを、胸もとから見上げる。

「俺に、山科を責める資格はないのかもしれない」

 どうしてかと、首をかしげる。

「〝相手の意思を無視して押し付けるのはあまりにも横暴だ〟とあのときは言ったが、それは自分にも当てはまる」

 なにを言いたいのかがわからず、視線で問いかけた。

「俺はね、小春。紅葉亭で見かけた、明るくて優しい小春にだんだん惹かれていったんだ」

「え?」

「たしかに、見合いの話を持ち掛けたのは父らだが、興味がなければ応じていない」

 父親の友人の娘だから、彼はとりあえずお見合いを受けたとばかり思っていた。

「あの頃には、すっかり小春を好きになっていた」

 ストレートな言葉に、ジワリと頬が熱くなる。
 父らの、認められるには伴侶が必要だというような会話も、一部の偏った考えの人の話だったのかもしれない。少なくとも千隼さんは違うと、今の真剣な顔をした彼を見ればわかる。

「だが、俺は今後も海外を行き来する生活になる。小春は紅葉亭を離れたくないだろうし、正樹さんたちも気がかりだろうと、交際を申し込むのを躊躇していた。って、OKしてもらったわけでもないのに、もし結婚したらとまで考えるほど、小春を愛していたんだけどな」

 気恥ずかしそうにする彼に、胸が甘く疼く。

「俺と一緒になってくれるのか、それとも断られてしまうのか。最後の決断は、小春自身にしてほしかった。だからあの頃、好きだとは言えなかった」

 言ってくれていたらとも思うが、気持ちを伝えられていなかったのは私も同じだ。

「ただ、小春を簡単にあきらめるつもりはなかったから、行動で好意を伝えてきたつもりだが」

 いつ断られるのかとびくびくしていたというのに、彼は繰り返しデートに誘ってくれた。
 ひとりの女性として扱われて、優しい彼への好意がどんどん大きくなっていく。
 家族や大切な紅葉亭から離れてでも、千隼さんと一緒にいたいと望んだのは私の方だ。
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