愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 少し前に私の妊娠が判明し、同時期に千隼さんのカナダへの赴任が言い渡された。
 初めての出産・育児を慣れない異国でというのは不安があったが、ついていくことに迷いはいっさいない。

「カナダは、子どもの頃に住んでいたでしょ。まったく知らないわけじゃないわ」

 薄っすらとした記憶しかないとは、あえて明かさない。

「ベビーシッターの利用率も高いみたいだし、困ったときに頼れる手段はあるの」

 決断するまでには、お世話になっている医師の意見を聞き、千隼さんともたくさん話し合った。
 その結果、赴任する時期がちょうど安定期に入っている頃なのもあり、彼と一緒に移り住むことにした。

 困り顔のふたりを目にして、ふっと肩の力を抜く。

「私だってね、お父さんたちに初孫をいち早く見せてあげたいんだよ。でも、それよりも父親である千隼さんと子どもを引き離したくないの」

 父らが、孫可愛さだけで引き留めようとしているわけではないとわかっている。
 ただ、また千隼さんと離れ離れになるのは私が受け入れられなくて、必要以上にむきになってしまった。

「それに、俺はもう結婚をして一人前になったしな」

 しんみりとした空気を、千隼さんがわざとらしい口調で吹き飛ばす。

 このタイミングで彼がそう付け加えたのは、私が聞いてしまった父らの話を明かしたからだ。
 私を勘違いさせたと彼が腹を立てたのを、ふたりも知っている。

「正樹さんも父さんも、子どもが産まれて落ち着いた頃に招待するから」

 柔らかい口調で、千隼さんが諭す。
 ふたりもようやく納得して、緊張を解いた。

「お父さんたちが、心配してくれているのは十分わかっているの。気が立ってしまって、ごめんなさい」

 落ち着きを取り戻した私に、父も義父も優しい表情でうなずき返してくれた。
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