愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 別の休日には、念願だったマグリット美術館へ出かけた。
 ルネ・マグリットについて、特別詳しく知っているわけではない。ただ、学校でシュルレアリスムについて学んだ際に目にした『大家族』という大きな鳥の絵が印象的で、大人になってもずっと覚えていたほどだ。

 ほかの作品について調べてみれば、空中にたくさんの人が浮いている『ゴルコンダ』や、貴婦人の顔をすみれの花で隠してしまった『世界大戦』など、不思議な世界観が興味を惹いた。一見どこか奇妙で、でも背景を知ればいろいろと考えさせられる作品ばかりだった。

 静かな館内を、ふたり並んで進む。
 美術館へ足を運ぶ機会は多くはなかったが、この緊張した雰囲気は嫌いじゃない。

 彼と並んで、ひとつ一つの絵をじっくりと見つめる。
 つい時間をかけ過ぎていたかもしれないが、千隼さんが私を急かすことはなかった。

「小春が、こういう絵に興味があるなんて意外だな」

 すべてを見終えて外に出たところで、不思議そうに言われる。

「イメージじゃない?」

「ああ」

 たしかにそうかもしれないと、自身でも思う。

「学生の頃に教科書で見て、気になっていたの。せっかくベルギーにいるんだし、本物を見てみたいなあって」

 一枚の絵に昼と夜とが描かれた『光の帝国』は、矛盾しているその様が不思議で、すっかり引き込まれていた。

『真夜中の結婚』という作品はさらに難解で、絵の前で長く佇んでいた。
 台の上段に後ろ向きの頭部が、下段に金色の髪だけが描かれており、なにを表現したいのかまったくわからない。
 結婚というからには、髪の長さから勝手に男性と女性だと思い込んでいた。
 けれど、よくよく考えてみれば確定要素はまったくなくて、性別は断定できない。突き詰めるほど混乱を極め、結局はなにもわからなくなっていた。

 美術館を出る頃には、満足感と同時に、頭を使い過ぎて疲労感を覚えるほどだった。
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