愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 食べ終わって一階に下りると、再びショーウィンドウに釘づけになってしまう。
 目ざとく気づいた千隼さんが、くすりと笑った。

「相手の国の文化も、知らないとな」

 からかうような口調でそう言った彼は、日持ちのするクッキーをたくさん買ってくれた。

 外に出て歩きはじめれば、当たり前のように手をつながれる。
 一緒に過ごす時間が持てるようになって、私たちの距離は確実に近づいている。
 手が触れ合えば次は指を絡めたくなるし、額に口づけられただけで恥ずかしかったのに、さらに唇にもと求めてしまう。

 短期間の付き合いで結婚に至ったため、彼を好きだという気持ちとは裏腹に戸惑いもあった。
 お見合いで結婚を決めたのならそれが普通なのだろうけれど、すんなり受け入れようにも私の経験値がなさ過ぎた。

 可能ならば、結婚までにもうしばらく恋人のような関係を続けて彼に慣れていきたい。
 けれど、お見合いをした少し後には千隼さんのベルギー行きが決まっていた。

 数年間も離れ離れになれば、再び彼が私との結婚を望んでくれるとは限らない。もしかしたら、現地でほかの女性と出会うかもしれない。

 ぐちゃぐちゃと考えていた時期もあるけれど、最終的にたどり着いたのは千隼さんが好きだというシンプルな気持ちだった。

 彼との縁を、手放したくない。
 その想いのまま突き進み、こうして夫婦になった。
 
 男女交際に不慣れだと、千隼さんは早々に気づいていたのかもしれない。彼はいつも私の反応を伺いながら、少しずつ距離を縮めてくれる。

 私の中で彼への好意が大きくなるほどもどかしくもあるが、些細な触れ合いですら胸が高鳴ってしまうのだから、これくらいのペースがちょうどいいのだろうと現状を満喫している。

 逆に、千隼さんはどうだろうか。
 もっと、彼の気持ちが知りたい。
 一緒に出掛けるばかりではなく、自宅でゆっくり過ごすのもいいだろう。
 さっき尋ねたみたいに、私の知らない彼をもっと教えてほしい。

 そうする時間はこれからたくさんあるのだからと、楽しみにしていた。

 日本にいる祖父から私へ連絡が入ったのは、そう期待に胸を膨らませていた矢先のことだった。
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