愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 事実を隠されて、治癒した頃に知らされたら間違いなく私は怒っていただろう。
 それが気遣いだとわかっていても、家族の一大事は絶対に知らせてほしい。

 ただ、離れて暮らす私にできることなどなにもないのもわかっている。

 日本とベルギーの間には、八時間ほどの時差がある。
 動きだしの早い祖父ならもう起きているだろうと思い切って国際電話をかけたところ、運よく応答してくれた。

『昨日も見舞いに行ったが、口は達者だったぞ』

 厳格な祖父が珍しく軽口をたたくのは、私を必要以上に不安にさせないためだろう。
 本当に骨折だけなのか。命に別状はないと言っても、頭を打っていた莉ほかにもケガを負っていたりするかもしれない。
 自分の目で確かめられないせいでどうしても疑ってしまったが、実際に祖父と話して隠し事はないようだと納得した。

 状況は大体メールで知らせてくれた通りで、紅葉亭は当然しばらく休まなくてはならない。
 それがどれほどの期間になるかは不明だが、家賃などを考えれば長期にわたる休業はかなり厳しいはずだ。

 祖父もひとりで旅行に出られるくらい元気だとはいえ、さすがに歳も大きくなってきた。
 退院してもしばらくは介助が必要になるだろうし、リハビリにだって通うはずだ。その負担はかなり大きいと、容易に想像がついた。

 誰かの手を借りられればよいが、もともと父方の親類は少なくて頼れる相手は思いつかない。
 人を雇うにしても、プライベート空間に他人が入るのを嫌う祖父には、精神的な苦痛になりかねない。
 事実、祖父からのメールには【自分たちでなんとかできる】とある。おそらく、人を雇うつもりはないのだろう。
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