愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「でも、妻として千隼さんの支えになりたいのも本当なの。せっかく一緒にいられるようになったのに……」

 実家か千隼さんか。どちらかを選ぶようなことはできない。

「俺のことも考えてくれて、ありがとう」

 夫である千隼さんを前にして、どうしていいのか迷っている自体がなんだか申し訳なくなる。

「俺はね、小春。家族を大切にする君を見ていて、こんな家庭がつくれたらいいなあと思っていたんだよ」

 彼はなんの話をしようとしているのかがわからなくて、小さく首をかしげた。
 困惑する私の頭に、再び大きな手が乗せられる。

「父さんも今ではあんな感じだが、俺の幼少期は仕事のひと筋でかまってもらった記憶はほとんどない。母さんなんてもっとそうだ。そんな俺から見たら、小春たち親子の温かな関係は憧れなんだよ」

 なんとなく彼の幼少期については察していたが、こうしてはっきり聞かされると胸が痛む。

「なあ、小春。俺に遠慮しないで、日本に戻ってもいいだよ」

「でも」

「もちろん寂しくはなるが、離れていようが俺たちが夫婦だという事実は変わらない」

 千隼さんに言われて、私の中にあった不安に気づく。

 父と祖父や紅葉亭について、彼に明かしたのはもちろん本音だ。
 でも、それだけじゃない。

 彼を支えたいというのは本当だが、それは理由のひとつにすぎない。
 千隼さんと物理的に離れてしまえば、心の距離もできてしまうのではないかと怖くてたまらなかった。

 千隼さんは私を好意的に受け入れてくれているが、お見合いで結婚を決めたのだから恋愛感情があるとは限らない。

 離れていれば、愛想をつかされかねない。 
 自分の家族ばかりを心配して肝心の夫を蔑ろにするなんて、彼にどう思われるだろうか。これでは結婚した意味がないと、呆れられてしまうのではないか。
 それは必ずしも千隼さんだけでなく、義両親がどう捉えるのかもわからない。

 どうしようもないほど千隼さんを好きになってしまった私は、別れの可能性に恐怖してしまう。
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