愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 祖父は目を閉じて、なにかを考え込んでいる。

 自分の代で店をたたむ覚悟をしていた祖父だが、方針転換してからは後を継ぐと決めた父に全力で向き合っていた。その様子に、本当は店を終わらせたくなかったのだろうと感じたのは間違いではなかったはず。

「おじいちゃんにも、協力してほしい」

 私は給仕と事務仕事に徹しており、提供する料理に関してはまったくノータッチできてしまった。

 紅葉亭は、祖父の料理で人気を集めた店だ。常連客をはじめ、昔から受け継いでいる味を楽しみにしている人はたくさんいる。
 父の代になり新しいレシピを考案してきたが、それは祖父の料理をきっちりと守った上でのことだ。

 店を再開するのなら、当然これまで通りの料理を提供しなければ意味がない。だからここは、おじいちゃんの力と人脈に頼るしかない。

 閉めている期間が長くなるほど、客は離れてしまうだろう。一刻も早く再開する算段をつける必要があり、祈るような気持ち目の前に座る祖父を見つめた。

「……もう一度、わしが立つしかないんだろうな」

 目を開けてそう言った祖父の声音は、決して暗いものではなかった。

 祖父が引退して、数年が経っている。
 とはいえ、何十年も料理人として働いてきた人だ。それに普段からキッチンに立つ機会も多いため、感覚は鈍っていないと踏んでいる。
 高齢になってきため無理はさせられないが、今はその力を借りたい。

「もちろん私も手伝うけど、料理に関してはおじいちゃんの知り合いの手も借りられたら理想的だわ。それから、しばらくは営業時間を短縮する方向で……」

 こんな事態になったため、来てくれていたパートの方は事情を説明して辞めてもらったという。すぐに声をかければ、もう一度引き受けてもらえるかもしれない。

「とりあえず明日、お見舞いに行ったときにお父さんにも話してみるから。それから、パートさんも私から連絡してみる」

「ああ、頼んだ」

 方針が固まり、ようやく肩の力が抜けた。
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