愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 それからは、ベルギーにいた頃とは打って変わって忙しい日々になった。

 新婚早々に、千隼さんとの生活を放ってきてしまった後ろめたさはどうしても拭えない。彼の気遣いに報いるためにも、絶対に中途半端にはしないと決意している。
 
 六月も中頃になり父はリハビリ専門病院に転院した。ここでの入院は二、三カ月になる予定だ。
 医師の話によれば、骨折が大腿部だったため、骨が完全に元に戻るまでに一年以上かかるらしい。
 私の滞在は思ったよりも長くなりそうだと、父を励ましながらも不安がよぎった。

 でも、時間を無駄にするわけにはいかず、できることをやっていこうと強引に気持ちを切り替える。

 先日まで勤めてくれていた丹羽(にわ)さんにはすぐさま声をかけており、ぜひ戻りたいと快く請け負ってくれた。
 彼女は父と同世代の方で、祖父の代から務めてくれている。私とも顔見知りで、即戦力となる人に来てもらえるのはありがたい。

 祖父の知り合いからの紹介で、見習いとして岡本(おかもと)さんという若い料理人が来てくれる手はずも整った。
 彼は祖父から料理を学びつつ、一緒に厨房に立ってもらう予定だ。これで少しは祖父の負担も軽減できるだろう。

 そうして私が帰国して二カ月が経った頃に、諸々の準備も整えられて紅葉亭の開店にこぎつけた。

 これまでの間、千隼さんとは毎日のようにメールを送り合っている。彼も現状を喜び、私を帰国させた甲斐があったとまで言ってくれた。
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