愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 結婚の挨拶で一度だけ顔を合せた義母は、年齢を感じさせない精力的な女性だった。少し釣り上がった目が勝気そうな印象を与えるが、実際にはサバサバとした性格の明るい人だ。

 幼い頃の千隼さんの心情を考えればなんだか切なくもなるが、そういう家族のかたちもあるのだろう。

 最近の千隼さんは、特に義父とよい親子関係を築きつつあるようで、私としてもうれしく思っている。

『ならいいが……あの人、店で小春と撮った写真をわざわざ送りつけてきたよ』

 なじるような口調で『やることが大人げない』と続けた千隼さんに、苦笑する。
 冗談交じりとはいえ、そこに嫉妬心があることに安堵もした。

「あの写真、本当に送ったんだ。お義父さんはきっと、紅葉亭の様子を伝えたかったのよ。他意はないはずだよ、たぶん」

 つい〝たぶん〟と加えたのは、写真を撮った日を思い出したからだ。
 あのとき義父は酔いも手伝って間違いなくふざけ半分だったが、それをあえて明かさなくてもいいだろう。

 私も見せてもらったが、写真は常連客で賑わう店内を背景としており、偶然にも端に祖父が映り込んでいた。
 なんだかんだと息子をからかいつつ、実はこちらの様子をしっかりと伝えてくれたのだろう。

『とりあえず、紅葉亭の経営も順調みたいだし、皆も元気で安心した』

「うん。今のところ、心配いらないからね」

 それからもう少し話していたくて、ずるずると会話を続けてしまう私に、千隼さんは最後まで付き合ってくれた。

 通話を終えると、なんだか心にぽっかりと穴が開いてようで寂しくなる。こういうときに、自分の中の千隼さんの存在の大きさを実感する。
 私にとって彼の隣は、すっかり安心できる場所になっていたようだ。
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