愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 櫛田さんとそろって来店して以来、彼女はすでに何回か店に足を運んでくれている。顔を合せるたびに気軽に話しかけてくれるから、少しずつ親しさが増していった。

「いつもありがとうございます。こちらにどうぞ」

 今夜はひとりで来ているため、カウンターへ案内する。
 
 メニューを眺めながらお酒といくつかの料理を注文した山科さんは、くつろいだ様子で店内を見回した。

 最初に彼女が選んだのは、新政の『亜麻猫』だった。前に来てくれたときに私が紹介した日本酒で、猫をモチーフにしたパッケージの可愛さもあって女性の人気が高い。

 白麹を使用している亜麻猫は、口に含んだ瞬間は強い酸味が主張してくる。そこに米の旨みと甘みが加わり、すっきりとした飲み口になる。そんな味のギャップも人気のひとつだ。

「このお酒、気に入っちゃったのよ」

 明るい口調で言いながら、グラスを傾けた。

 高級なバーでワインを楽しむ姿が似合いそうな山科さんだが、ひとりで日本酒を口にする姿もなんとも絵になる。どこか妖艶で、つい見惚れてしまう。
 自分では到底醸し出せない大人の雰囲気が、無性に羨ましくなった。

 気さくな彼女は、私の手が空くのを見計らって頻繁に声をかけてくれる。

「――ベルギーと言えば、チョコやワッフルよね」

「ですよね! ワッフルは食べたんですけど、チョコレートの専門店にはまだ行けてなくて。向こうに戻ったら、いろいろと食べ比べてみたいんです」

 ほかの客へ配慮を忘れずに、山科さんとの会話を楽しむ。

 ブリュッセルで千隼さんと食べた、甘いワッフルが懐かしい。
 彼とふたりでもっと出かけたかったと、つい恨めしく思う。

「私のお薦めはね……」

 山科さん自身はベルギーに行ったことはないとしつつ、前に取り寄せて美味しかった商品をいくつか教えてくれた。ブリュッセルにも店舗を構えていると聞いて、いつか行ってみたいと思う。
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