愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 時間通りに到着したが、彼女はすでに私を待っていた。急いで駆け寄り、遅くなった謝罪をする。

「時間通りだから、大丈夫よ。行きましょうか」

「はい」

 連れて行ってくれたのは、駅に近いオシャレなカフェだった。
 事前に聞いていた通りチョコレートを使ったスイーツのお店で、カカオ豆の仕入れからこだわっているという。

「どれも美味しそうなんですけど」

 ショーケースに並ぶスイーツを見て、悩ましげに漏らす。

「ほら。ベルギーでまだ、チョコレートを食べてないって言ってたじゃない? せめてもと思って。それに、疲れた体には甘いものが一番よ」

 あれもこれも食べてみたいと迷いながら、案内されたテーブルに向かい合わせで座った。

「ここは大きな仕事をやり終えたときとか、逆に行き詰ったときなんかも来るかな。ご褒美でもあり、元気づけでもあるって感じで」

「なるほど」

 自分のためだけにここまで足を延ばすという発想は、私にはなかった。
 山科さんはその外見だけなく、言動も素敵な大人女子だと憧れてしまう。

「コーヒーにしちゃうと、チョコレートの味がぼやけちゃいそうじゃない?」という、この店に通い慣れた彼女の意見にしたがって、飲み物は紅茶に決めた。

 彼女は早々にチョコレートのロールケーキに決め、私は吟味に吟味を重ねてフォンダンショコラをオーダーした。

「なんだか、食べるのがもったいないです」

 それほど待たずに運ばれてきたスイーツを前に、口もとが緩みそうになる。
 無意識にそうこぼした私に、山科さんはくすりと笑った。

「眺めているうちに、横から盗られてしまうわよ」

 おかしな表現をした彼女に、目を瞬かせる。
 独特な言い回しの意図を図りかねて、とりあえず形だけ小さく笑い返した。
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