愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
「千隼先輩は仕事ができる人だから、なんでもかんでも引き受けて抱えがちなのよねえ」

「千隼、先輩?」

 違和感のある呼び方に、首をかしげる。
〝先輩〟という言い方は、彼女の職場では一般的なのだろうか。そもそも、彼女はなぜ彼を下の名前で呼ぶのか。

「ああ。私ね、千隼先輩と大学が一緒だったのよ。一学年違いでね。長くそう呼んでいたから、もう癖のようなものね」

「そう、ですか」

 親密な相手というわけでなくても、異性を下の名前で呼ぶ人もいる。プライベートならともかく、職場でもそう呼んでいたとしたら私は違和感を抱く。

 ただ、自然とそう呼んだ様子から、普段から千隼さんもその呼び方を受け入れていると想像がつく。
 なんだかモヤモヤするが、私より付き合いの長いふたりの関係に口出しはできず、聞き流すことにした。

「千隼先輩ったら、学生の頃かずいぶんモテていたのよ」

「……はあ」

 彼は本当に素敵な人だから、当然そうだったのだろう。わかりってはいるものの、あえて聞きたい話ではない。
 そして、どう返していいのかもわからない。

「でも、自分にその気はまったくないからって、言い寄ってくる女の子たちを冷淡にあしらってしまうの」

「冷淡に、ですか?」

 物腰の柔らかい千隼さんが、そんな態度をとるなんて想像がつかない。私が知っている彼は、いつだって穏やかで気遣いのできる人だ。

 大学生の頃から今まで近くにいた山科さんに、彼は私の知らないほかの一面も見せていたのかもしれない。
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