愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 それから数年が経ち、千隼さんがふらりと紅葉亭にやってきたときはとても驚いた。

 彼との再会は、今からちょうど一年前くらいになるだろうか。
 懐かしさに思わず声をかけたところ、千隼さんは自身の事情を気さくな様子で教えてくれた。

 大学を卒業後に外務省へ入省した彼は、数年の国内勤務を終えた後にフランスで二年間の語学研修を受けていたという。その後はスイスの日本大使館で二年の勤務を経て、ようやく帰国したのが一週間ほど前だった。

『久しぶりに、美味しい和食が食べたくなってしまってね。それに、紅葉亭のアットホームな雰囲気が無性に懐かしくて』

 少し気恥ずかしそうに話す千隼さんを、カウンター席に案内する。
 彼がスーツを着ている姿は初めて目にしたせいか、その素敵さに内心ドキドキしていた。

 それから千隼さんは、客として月に何度か店に足を運んでくれるようになった
 店が霞が関からほど近く、仕事上がりに立ち寄りやすい場所にあるのも都合がよかったのだろう。

 彼はひとりで来ることが多かったが、稀に同僚を連れてくる日もある。
 たまに義父と鉢合わせてしまい、しつこく絡む実父を千隼さんがぞんざいに扱っていた。でもそこには親子の情が感じられて、見ていてやはりおもしろい。

 父の友人の息子さんだからと、千隼さんがひとりで来てくれたときに、私からこっそり小鉢を差し入れときもある。それを彼は、笑みを浮かべながら受け取ってくれた。
 私のお節介は不快ではなかったようで、そんなやりとりをきっかけに少しずつ打ち解けていく。
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