愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
* * *

 ようやく結婚生活を再スタートさせて、二週間ほどが経った。

「今夜は店の方へ寄るから、一緒に帰ろう」

「ありがとう。千隼さんも、頑張ってね。行ってらっしゃい」

 仕事に向かう千隼さんを、玄関で見送る。
 明るい調子で返した私に、目を細めた千隼さんが素早く口づけた。

「ああ、行ってくる」

 初めて肌を重ねたからというもの、日常生活の中でスキンシップが格段に増えた。
 以前は私の反応を探りながらゆっくりと関係を深めていたが、再会してからは配慮を忘れずに、けれど遠慮がなくなった。
 彼に触れられるのはうれしくて、すべてを素直に受け入れている。

 千隼さんには、不安を感じる暇もないほど、ずいぶん甘やかされていると自覚している。
 だから今さら山科さんの話を持ち出す必要はないと、あらためて自分を納得させた。

 千隼さんを送り出して、家事に取りかかった。

 最近の私は、平日にふつかほどフランス語の講座に通いはじめた。
 外交官として働く千隼さんの負担になるわけにはいかない。そのために、まずは言語の習得だとはじめてみたけれど、よい気分転換にもなっている。
 余裕ができたら、英語の勉強も本格的に取り組むつもりだ。

 習い事のない日には、紅葉亭の手伝いを続けている。
 その決断をするまでには、さんざんな葛藤があった。

 本音を言えば、近くにいられる今くらいは父の助けになりたい。
 でも、千隼さんとの生活もおろそかにはしたくない。
 これまではずっと実家の手伝いをさせてもらってきたのだから、今後は家庭に入るべきなのだろう。
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