愛を秘めた外交官とのお見合い婚は甘くて熱くて焦れったい
 そろそろ帰ろうと、店の外に出る。入口が閉まると、自然に手をつながれた。
 歩きながら気兼ねなくおしゃべりができるこの時間は、私の楽しみでもある。

「――やっぱりね、海外から来た人の中には、生魚はどうしても苦手だっていう人もいるの」

 千隼さんがやってくる直前にあった、海外のお客様の話を聞かせた。
 和食に興味を持ち、ぜひ食べてみたいと言ってくれるものの、慣れない食材や調理方法が無理だったというケースはたまにある。

「そうだろうな。苦手というのもあるが、以前スイスにいた頃は宗教上食べられないという方もいた」

「言われてみれば、そうよね」

 そのあたりは考えてもいなかったが、今後は店内のメニューに外国語表記を加えた方がいいかもしれない。

「あっ、でもね、日本酒を気に入ってくれる人はすごく多いのよ」

「たしか調査で、訪日した外国人の八割は日本酒を飲んでいると結果が出ていたよ。酒蔵見学なんかも人気があるそうだ。日本酒の販路は、やはり国外にも目を向けていくべきかもしれないな」

 仕事柄、千隼さんはこういう情報には敏感なのだろう。

 日本酒を飲んでみたいとやってきた方には、最初は嗜好を聞きながら王道の銘柄を勧めている。
 それから店内に飾られた瓶に目を向けて、違う種類に興味を持ってくれる人もいた。

「私から見たらワインのボトルなんてすごくオシャレだけど、海外の人には酒瓶も見ていて楽しいみたいで」

「へえ」

 もちろんお酒そのものを楽しんでくれるが、パッケージも気に入ってもらえる。

「やっぱり、和風のラベルが人気かな。北斎触察画純米大吟醸っていうお酒があるんだけど、葛飾北斎の『神奈川沖浪裏手』という浮世絵が採用されているの。もちろん絵も喜ばれるけど、触察画っていう名前の通り表面に凹凸がついているから触っても楽しめて。お土産に買っていく人もいるみたい」

「それは面白いな」

 私の話を、千隼さんは相槌を打ちながら聞いてくれる。
 お店に関する内容ばかりで飽きさせていないかとこっそり表情を伺えば、目が合った途端に優しく微笑み返された。
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