陰キャの橘くん
朝礼後、大展示室は大騒ぎとなった。開館時間まであと30分だというのに、メインの巨大パネルが斜めになっていることが発覚したのだ。スタッフはそれぞれの持ち場の準備があるため、倉庫の整理をする予定だったももと橘が、修正作業をすることになった。
巨大パネルの前に脚立を置くと、ももは壁を見上げた。おそらくパネル上部の左側が、壁に取り付けられた固定器具から外れてしまっていると思われる。
「私が下からパネルを持ち上げるから、橘くんは上を固定してくれる?」
はい登って、と、ももは脚立を押さえた。しかし橘はその場に立ったまま。
「橘くん、早く。時間ないから。」
「いや、でも…僕。」
橘は脚立を見上げた。
「ぼ…僕、高いところ、に、苦手で…。」
「はぁっ!?」
大展示室にももの声が響く。
呆れた。
パネルの上部は床から4m近い高さになる。2mの脚立の天板に上がったとしても、身長が160cmのももが作業するにはギリギリの高さだ。むしろ、180cm近い身長の橘の方が適任と言えるのだが。
「もういいわ。」
ももは橘を睨みつけると、カンカンと脚立を登り始めた。
ももだって高いところが得意なわけではない。脚立が揺れるたびに、目眩を起こしそうになる。それでも仕事なのだからやらなければいけない。そこのところが橘はわかっていない。
ももは脚立の天板に両足を乗せて背伸びをすると、パネルの上に手を伸ばした。よくは見えないが、外れている金具の感触はあった。
「いいよ、上げて。」
ももの合図で橘が下からパネルを持ち上げる。カシャンと音がして、固定器具に引っ掛けることに成功した。ほぅっと安堵のため息が出る。
「降りるから押さえててくれる?」
ももは、下にいる橘に声をかけると片足を天板から下ろした。ひゅうっと血の気が引いていくような感じがする。
脚立って登る時より降りる時の方が怖いんだよな…。
そんなことを考えた次の瞬間、下に降ろした足が滑った。
あっ…と思ったのも束の間、ももは脚立から滑り落ちていく自分の体を感じた。
人は死ぬ直前、様々なことが走馬灯のように頭の中をよぎるという。
私、どうなるの。2mの高さとはいえ、落ちたら無傷では済まないよね。全身の骨が折れて、打ちどころ悪ければ死んじゃったりとか?
あーあ、イケメンの彼氏と付き合いたかったな。チャペルで式も挙げたかったし。しかも今日、下着の色が上下違うんだよね。もし病院に運ばれたりしたら服、脱がされるんだろうな。かっこ悪。
ガシャンッという脚立が倒れる大きな音がしたと同時に、ももの体に強い衝撃が走った。しかし、思ったほど痛くはない。
…え?
柔らかい感触がしたので見ると、橘がももの下敷きになっていた。
「えっ…やだ。大丈夫!?」
仰向けに倒れていた橘が、ゆっくり起き上がる。
「だ、大丈夫…です。」
ズレたメガネにはひびが入っており、頬からは血が出ていた。
「も、もさんは…何ともない、ですか?」
「…大丈夫だけど。」
何で橘くんが。
「…なら、よかった。」
そう言って少し笑った橘の目がいつもと違う気がして、ゾクッとする。
突然の大きな音に、他のスタッフが大展示室に集まってきた。
橘がメガネをかけ直して立ち上がる。
ももは、その姿を見つめた。
さっきの目…橘くんの目、すぐにメガネをかけちゃったからよく確認できなかったけど。切れ長ですごく綺麗な色の目だった。
そもそもキモくてダサいくせに私の下敷きになるとか、何なのあの男。
「ちょっと、大丈夫?」
駆けつけた藤堂に体を支えられ立ち上がると、ももは少しだけ痛む腰を抑えた。
巨大パネルの前に脚立を置くと、ももは壁を見上げた。おそらくパネル上部の左側が、壁に取り付けられた固定器具から外れてしまっていると思われる。
「私が下からパネルを持ち上げるから、橘くんは上を固定してくれる?」
はい登って、と、ももは脚立を押さえた。しかし橘はその場に立ったまま。
「橘くん、早く。時間ないから。」
「いや、でも…僕。」
橘は脚立を見上げた。
「ぼ…僕、高いところ、に、苦手で…。」
「はぁっ!?」
大展示室にももの声が響く。
呆れた。
パネルの上部は床から4m近い高さになる。2mの脚立の天板に上がったとしても、身長が160cmのももが作業するにはギリギリの高さだ。むしろ、180cm近い身長の橘の方が適任と言えるのだが。
「もういいわ。」
ももは橘を睨みつけると、カンカンと脚立を登り始めた。
ももだって高いところが得意なわけではない。脚立が揺れるたびに、目眩を起こしそうになる。それでも仕事なのだからやらなければいけない。そこのところが橘はわかっていない。
ももは脚立の天板に両足を乗せて背伸びをすると、パネルの上に手を伸ばした。よくは見えないが、外れている金具の感触はあった。
「いいよ、上げて。」
ももの合図で橘が下からパネルを持ち上げる。カシャンと音がして、固定器具に引っ掛けることに成功した。ほぅっと安堵のため息が出る。
「降りるから押さえててくれる?」
ももは、下にいる橘に声をかけると片足を天板から下ろした。ひゅうっと血の気が引いていくような感じがする。
脚立って登る時より降りる時の方が怖いんだよな…。
そんなことを考えた次の瞬間、下に降ろした足が滑った。
あっ…と思ったのも束の間、ももは脚立から滑り落ちていく自分の体を感じた。
人は死ぬ直前、様々なことが走馬灯のように頭の中をよぎるという。
私、どうなるの。2mの高さとはいえ、落ちたら無傷では済まないよね。全身の骨が折れて、打ちどころ悪ければ死んじゃったりとか?
あーあ、イケメンの彼氏と付き合いたかったな。チャペルで式も挙げたかったし。しかも今日、下着の色が上下違うんだよね。もし病院に運ばれたりしたら服、脱がされるんだろうな。かっこ悪。
ガシャンッという脚立が倒れる大きな音がしたと同時に、ももの体に強い衝撃が走った。しかし、思ったほど痛くはない。
…え?
柔らかい感触がしたので見ると、橘がももの下敷きになっていた。
「えっ…やだ。大丈夫!?」
仰向けに倒れていた橘が、ゆっくり起き上がる。
「だ、大丈夫…です。」
ズレたメガネにはひびが入っており、頬からは血が出ていた。
「も、もさんは…何ともない、ですか?」
「…大丈夫だけど。」
何で橘くんが。
「…なら、よかった。」
そう言って少し笑った橘の目がいつもと違う気がして、ゾクッとする。
突然の大きな音に、他のスタッフが大展示室に集まってきた。
橘がメガネをかけ直して立ち上がる。
ももは、その姿を見つめた。
さっきの目…橘くんの目、すぐにメガネをかけちゃったからよく確認できなかったけど。切れ長ですごく綺麗な色の目だった。
そもそもキモくてダサいくせに私の下敷きになるとか、何なのあの男。
「ちょっと、大丈夫?」
駆けつけた藤堂に体を支えられ立ち上がると、ももは少しだけ痛む腰を抑えた。