宿り木カフェ

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目が覚めたのは病院のベットの上だった。
あぁそういえば先日ヒロさんも話していたな、気がつけば病院のベットだったって。
ぼんやりと思い出すのはそんな事。

そして先ほどまで起きていた事を段々と思いだし、涙でも出るのかと思ったけれど、やはり涙が出ることもなく、私はただぼおっと天井を見ていた。


「渡辺さん入りますよ」

女性の声がしてゆっくり視線をそちらに向けると、看護師がカーテンを開けて入ってきた。
看護師は何かを手に持ったまま、

「会社で倒れられたのでこちらに搬送されました。
診察した医師が、頭を打っているようなので検査入院して欲しいとのことなのですがどうされますか?」

「・・・・・・明日、退院出来ますか?」

「はい」

「ならお願いします」

そういえば会社でいつも簡単な健康診断をするだけだ。

脳なんて見てみてもらった事も無いし、きちんとみてもらうのもいいかもしれない。
健康保険がきくといってもそれなりの出費は出るだろう。
予想外の出費は正直痛い。
だが、あまりに疲労していて、このまま家に帰ってもまた倒れそうで怖かった。
帰っても一人だけ。
きっと会社の人が心配して警察に連絡してくれるなんて事は期待できそうに無い。


「では入院の手続き書類にご記入をお願い致します」

私はだるい身体を起こし、目の前に差し出されたその書面を見て、渡されたボールペンを持つとゆっくりと記入し始めた。

しかしある場所で書くのが止まった。
そこは身元保証人という欄だった。

「あの、ここに書かないと入院できませんか?」

「・・・・・・もし一人暮らしでしたら、ご実家でも構いませんよ?」

「いえ、家族が誰もいないんです」

そう返しても看護師は特に表情も声も変えなかった。

「ではご親戚を」

「いえ、いません、誰も」

私の言葉に、看護師が黙る。
彼女は特に眉間に皺を寄せることもなかった。

「わかりました。
検査入院ですし、この書類で大丈夫か入院窓口とかけあってみます」

「お手数かけます」


淡々と看護師はそう言うと、書類を持って出て行った。

「家族や親戚が居ないと入院すら出来ないなんて、世知辛い世の中だなぁ」

家族がいないことでの不利益は沢山受けてきた。
今の会社に入る時に、身元保証人を書かされた。
その頃は母が生きていたので良かったが、会社もその後を知って特に何も言ってこない。
もしも誰もいなかったとしたら、どうなっていたのだろう。


「ヒロさんと話すのが今日や明日じゃなくて良かった。
連絡しないで出なかったら、心配してくれたかな」

私はそう呟いて毛布を頭まで被った。
泣きたいのに、やはり涙は出なかった。
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